作品タイトル不明
31「厨二病は誰もが通る道なんじゃね?」①
「――ここが河童さんの集落がある森か。気のせいだろうか、神々しい気配がする」
「そんなことはないかっぱー」
結局、河童さんと魔王ギーゼラを担いだ夏樹に誰一人として追いつける者はいなかった。
翼を広げた小梅でさえ、夏樹に触れることすらできなかった。
義政少年も自信はあったようだが、体力的な問題で途中で力尽きており、征四郎に回収されている。
東雲が朱雀を召喚して他の面々を乗せて飛んだが、やはり夏樹には追いつけなかった。
「……早すぎるんじゃ……なんで、全力ダッシュに俺様が追いつけんのじゃ……俺様、運動会で一番だったんじゃぞ」
小梅が息も絶え絶えにうつ伏せに地面に倒れている。
彼女の言う運動会が気になりはするが、夏樹の興味は河童さんの集落だ。
「河童さん、なんとなくだけど、結界的なものにこの森って守られてるよね?」
「そうだかっぱー。なっちゃんは鋭い子だかっぱー」
「いやぁ、それほどでもあります」
「謙遜せんかい!」
倒れたままの小梅が律儀に突っ込む。
「由良夏樹よ、とりあえず下ろしてくれ」
「そうだった。はいよ」
「すまない。しかし、城からそう離れていない場所に、河童さんたちが隠れ住んでいたとは……まるで知らなかったな」
「魔族さんたちはこわかったから隠れていたんだかっぱー」
「魔王としてフォローさせてもらうと、あなたたちのような可愛らしい生物をどうこうしようとする魔族はいないと思うが。いや、荒くれ者もいるので、絶対とは言えないな」
魔族もいろいろいるので、ギーゼラ的には河童さんに無条件に大丈夫だとは言えないらしい。
夏樹はそんな彼女の声を聞きながら、河童の集落があるであろう森を見つめている。
(なんだろう? ちょっと抵抗があるよね。ぴりって痺れるっていうか、近づきがたい雰囲気があるっていうか。うーん。だけど、どこかこう親しみがあるっていうか。なにこれ?)
夏樹は感覚的な人間だ。
熟考して調べることはしないし、ノリと勢いと力技でなんでも抑え込んできた。
反射と刹那的な行動が多いし、得意でもある。
それでも、二の足を踏んでしまう「何か」を森から感じて動けずにいた。
「待てよ、由良」
「千手さん?」
同じく森を見回していた七森千手が、サングラスを抑えながら近づいてくる。
隣に並んだ千手は、電子煙草のフィルターだけ咥える。
「あまり近づかない方がいいぜ。嫌な感じこそしないが、何かあるのは間違いない」
「…………千手さん」
「俺の魔眼が疼きやがる。ここまで疼くのは初めてだぜ」
サングラス越しに森を睨む千手の肩に夏樹はそっと手を置く。
「なんだよ?」
「厨二病はちゃんと治る病気だから安心していいからね?」
優しい笑顔を浮かべる夏樹の顔面に、千手は拳を思い切り叩き込んだ。