作品タイトル不明
30「可愛いは世界を救うかもしれなくね?」②
魔王ギーゼラ・シラーは、外見こそ幼い幼女であるが、子供がいる成人した女性である。
人間たちと戦い、魔族を守り、民のために力を尽くすことを良しとしている。
民を我が子同然に愛し可愛がっているのだ。
――しかし、彼女の前に未知なる存在がいる。
――河童だ。
「な、なななな、なんだこの可愛らしい生物は!」
「――河童様です」
「――河童、さま……」
「こんにちかっぱー 僕は河童なんだかっぱー!」
夏樹に紹介され、河童さんは名乗る。
「……我は、このような可愛くも美しい種族を知らないのだが、突然変異かな?」
「ちっちっちっ、河童さんは俺の世界の妖怪さんだー!」
「妖怪?」
「そう。妖怪! なんか用かい? なんちゃって! 痛いっ、お尻蹴らないで!」
説明の途中で余計なことをドヤ顔で言った夏樹の尻を、聖剣さん、小梅、銀子が無言で順番に蹴り飛ばしていく。
「つまり、我が国の民ではないということか?」
「そうだね。ただ、そこのフェイリスさんが干からびた河童さんを攫って献上し、なんやかんやあって宝物庫で放置されていたらしいんだけど」
「ちょっと、攫ったって言わないで! 拾ったの! 保護よ保護!」
フェイリスは「悪くない!」と耳を動かして主張する。
「まさか城の宝物庫にこのように愛くるしい生物がいたとは盲点だった。魔王となってから魔神の影響もあって戦うこと以外あまり考えていなかったこともあり……大失態だ」
「わかるよ、魔王さん。でもね、悔いてもしょうがない。これからさ!」
「……これから?」
「聞けば、河童さんたち集落は魔族から隠れてひっそり暮らしているようなんだ。近くにはモンスターも出るようだし」
「……それは由々しきことだ。すぐに保護せねば!」
「さすが魔王ギーゼラ・シラーだ。ならば行こう! 河童さんの集落へ!」
「――応!」
「そして、無事に保護して地球へ!」
「……待て、連れて帰ってしまうのか?」
ノリノリだった魔王が急に我に返ってしまう。
テンション高いままの夏樹は、「もちろん!」と親指を立てるが、ギーゼラはそんな彼の親指を握りへし折ろうとした。
「いたたたたたたたたたたたたた!?」
「連れて帰ることはないだろう。我が領土の一等地を河童さんたちに与えよう。いや、次の魔王は河童さんだ!」
「ちょ、それはさせないよ! 河童さんは帰りたがっているからね!」
「ぐぬぬぬぬぬ」
ギーゼラは河童さんが帰ってしまうことを心底納得できないようだ。
睨む魔王とドヤ顔の勇者に、疲れた声で千手がツッコミを入れる。
「河童勇者とぽんこつ魔王さんよぉ、話が進まねえからそろそろ河童の話は終わりにして、早く部隊を編成してもらって人間どもをどうにかしてさっさと帰ろうぜ」
「千手さん! 河童さんの保護が先でしょうが!」
「そうだぞ! 七森千手! お前に人の心はないのか!」
「……なーんで、人の心がない日本代表の勇者と異世界の魔王に言われなきゃならねえんだろうなぁ!」
頬を引き攣らせる千手が本気で怒っていると理解した夏樹は、河童さんとギーゼラを担ぎあげると走り出した。
「部隊の編成までには帰ってくるから!」
「おまっ、ふざけんなよ!?」
千手が全力で走って追いかけてくる。
「やべっ、千手さん足はやっ! クラスにひとりはいる運動部じゃないのにめっちゃ足速いタイプだ! ならば! ギャラクシー勇者式ウルトラスーパーデンジャラスフォーエバーマモンマモンエターナルバックステップ!」
「無駄に長い名前じゃし、バックステップとか言いながら全力で前にダッシュしているだけなんじゃが!?」
「いつもの夏樹くんっす!」
小梅と銀子が呆れていると、追いかける千手がぽかんとする一同に指示を飛ばした。
「いいから追え! あの河童勇者を捕まえろ! 話が進まねえ! 手足の一本くらい構わねえから、絶対に捕まえろ!」