作品タイトル不明
間話「魔法少女も大変じゃね?」①
田中くれないは、結婚相談所で働く三十歳だ。
向島市の一般家庭に生まれ、優しい両親とやんちゃな弟と幸せに過ごしていた。
――はずだった。
くれないが十歳になったある日の出来事だった。
剣道教室からの帰りに、とある生物と出会い、魔法少女となった。
当時は、魔法少女になることの代償をわかっていなかった。
人知れず、家族をはじめとした街の人たちを守ることに、使命感を持っていたと思う。
仲間が増え、元魔法少女の師匠のもとで強くなり、地上支配を企む地底人を無事倒すことができた。
――そこまでは、まだ良かった。
地底人との戦いが終わると、中学二年生だった。
そろそろ魔法少女もきついよね、なんてことを冗談で言っていたが、内心では高校生になって魔法少女は嫌だなと真面目に考えていた。
だが、責任感が強く、自分たちしか戦えないことをしっていたくれないをはじめとする魔法少女たちは魔法少女を投げ出すことはできなかった。
だが、そのおかげで平和を手に入れた。
部活動も二年生の後半から時間を割くことができ、全中に出場し結果を残すことができた。
高校受験も無事に終え、仲間たちとみんなで志望校に入学できた。
その後、高校生活を満喫していたのだ。
――しかし、再び魔法少女の力が必要となった。
高校一年生。
一年以上ぶりに魔法少女の衣装に身を包むのは恥ずかしかったが、持ち前の正義感から「やらない」という選択肢はなかった。
地底人の次は、モンスターだった。
言葉が通じず、ただ倒すしかない。
それでも、くれないたちは戦い続けた。
だが、限界が訪れた。
きっかけは、仲間のひとりに彼氏ができたことだった。
はじめは祝福していたが、魔法少女の活動は彼氏彼女の大事な時間を削ることとなった。
結果、破局。
モンスターを倒すよりも、自棄になった仲間を慰める方が大変だった。
続いて、他の仲間に彼氏ができた。
その子は、一番責任感が強い子だったのだが、魔法少女よりも彼氏を優先した。
すると、ひとり、またひとり、と彼氏ができていく。
ひとり我慢しなくなれば、みんなも我慢できなくなったのだ。
責めることはできない。
くれないだって、同じ立場になれば、同じ選択をしたかもしれない。
――だが、幸か不幸か、くれないに彼氏ができることはなかった。そして、くれないひとりでもモンスターをなんとかできてしまった。
結果として、魔法少女の部隊は解散。
くれないだけが魔法少女として、戦う選択肢をした。
もちろん、仲間たちが薄情だったわけではない。
高校卒業までは魔法少女でいてくれた。
だが、遠方の大学に行く子や、就職する子、それぞれ道がある。
なによりも、高校卒業後まで「魔法少女」を名乗れないと、みんな涙を流して脱退の謝罪をしてくれた。
くれないは彼女たちの気持ちを十分に理解し、笑顔で送り出した。
その後、大学に通いながらくれないは人知れず戦い続けた。
大学卒業後、かつての仲間の親が結婚相談所の社長であることから、事情を把握してもらい就職する。
その後、ずるずると魔法少女を続け、気づけば三十歳となった。
かつての仲間たちは、結婚した子、子供がいる子、独身だがやりたいことに全力で生きている子とそれぞれだ。
対して、くれないだけが、魔法少女を続けていた。
限界だった。
心も、体も、衣装も。
後継者は見つからない。
素質のある子がいないのだ。
せめてモンスターが出てくる「扉」をどうにかできればいいのだが、くれないたち魔法少女の全員の力でも無理だった。
責任感と、半分以上意地で、くれないは魔法少女として戦い続けている。
だが、今日は違った。
いつものモンスターと毛色の違う、人型のモンスターだった。
翼を持つ、悪魔のような存在で、強い。
空中戦を器用に行い、陸戦でも攻撃が重く苦戦した。
力任せに倒してしまおうと全力で砲撃をしたが、その一撃も大きなダメージを与えることができても倒せなかった。
公園に墜落し、立て直そうとした時だ。
――ひとりの少女が公園に入ってきてしまった。
認識阻害の魔法を向島中に展開しているはずが、なぜ、と思うと同時に、彼女を巻き込まないため、なによりも姿を見られないためにくれないは叫んだ。
「――っ、なんでこんなところに一般人が!? 早く逃げて! そしてこんな私を見ないで! 見ていたらお願いだから忘れて!」