作品タイトル不明
間話「俺の知ってる義妹と違うんじゃね?」②
佐渡ひなたは、教室の窓からのんびりと外の景色を眺めていた。
兄は朝からいないので会うことができず、「お兄ちゃん成分が足りていない」ため元気がない。
(そういえば、お兄ちゃんって前に急に京都に行ってたよね。お母さんとお父さんには連絡していたみたいだけど、そんなに行動的だったっけ?)
ひなたの記憶にある祐介は大学に行って、家ではゲームをして、本を読んでいる。そんな印象だ。
友人といきなり京都旅行なんて突発的にする性格ではない。
(関係ないと思うんけど、綾川杏と由良夏樹、三原一登さんも休みなのよね)
ひなたは杏と同級生であり、彼女の素行の悪さを知っている。
別に杏を不良だなんだと思っているのではない。
三原優斗に入れ込んでいるおかしな子として認識していた。
死んでしまった人間を悪く言いたくはないが、ひなたの友人も何人も優斗に手を出されていた。
肉体関係まで発展するほど深い仲になった者はほぼいなかったが、熱狂的なファンになってしまい友人を失った子もいる。
中には彼氏がいたのに、相思相愛の恋人未満の関係の異性がいながら、急に三原優斗に依存してしまう子もいた。
そんな子たちは、一度はパニックになったようだが、今は夢を見ていたようにおとなしくなっている。三原優斗に想いを寄せていた理由がわからないようだが、もう彼のことをまともに覚えてもいないらしい。
しかし、一度壊れた人間関係は治らない。
彼氏を心無い言葉で振った少女はどれだけ謝罪しても関係が修復されることはなかった。そんな彼女に手を差し伸べる者も少ない。
みんなが理由なく、悪意の言葉とともに振られた彼氏の味方だからだ。
相思相愛の幼馴染みともう少しで恋人になりそうな子は、心変わりしている間に幼馴染みに彼女ができてしまったことに憤ったが、付き合っていたわけではなく、他の男を追いかけていたので今更なにを言うと一蹴されてしまう。
なんだかんだと以前から、性格に難ありとされていた子たちばかりであることが不思議だ。
ちょっと困った子でも悪い子ではないと思われていた彼女たちは、気づけば「最低な女」となっていた。
そんな少女たちの中で群を抜いた存在が、綾川杏だ。
元とはいえ義理の兄であった由良夏樹と幼馴染みの三原一登をこき下ろしてばかり。
向島市の三大悪夢のひとりであるが、彼に救われた生徒は多い。
例えば、高校生に金品を請求されていた男子生徒は、親にも教師にも相談できず万引きしてお金を工面しようとした。そんなところを夏樹に見つかり、助けられた。
ついでとばかりに恐喝した高校生たちがパンツ一枚で公園の木に吊るされていたのは些細な問題だろう。
例えば、しつこいナンパをされていた女子生徒のまえにひょっこり現れた由良夏樹によって、少女は無事に家に帰ることができた。
だが、ナンパをしていた大学生たちは、大学を退学になり、いつの間にかいなくなっていたと言う。
例えば、家庭内暴力を行う精神的に病んだ家族がいる家庭で生活し、毎日アザを作ってくる子を見れば、暴力を振っていた家族が土下座し、なぜか夕日を背後に夏樹と殴り合い、ラーメン屋で号泣しながら食事をしたあと、家族に謝罪し、精神的に立ち直ったと言う。
そんな夏樹が、三原優斗を中心に彼の取り巻きにいつも貶められていることを知っている生徒は多く、杏の言動も、不快に思われていた。
杏をはじめ、問題ある女子生徒が三原優斗絡みであることが驚きだ。
弟の一登は少しチャラい格好をしているが、とてもいい子なのに。
(そんな由良夏樹とお兄ちゃんが友達になって……家を空けるようになって……あやしい。――っ、もしかして、実は由良夏樹はクリーチャーかなんかでモンスター大好きなお兄ちゃんとあんなことやこんなことをする関係になっているんじゃ!?)
ひなたの脳裏には、夏樹がSF映画に出てきそうなモンスターとなり祐介を辱める攻撃が広がる。
(――くっ、せめて私がモンスターっ子だったらよかったに! ――え?)
ひなたが妄想を繰り広げていると、窓の外で何かが光った。
――一筋の閃光だった。
「うぇ?」
「どうしたの、ひなたちゃん?」
変な声を出したひなたに隣の席の子が声をかけてくれるが、彼女は先ほどの閃光に気づいていないようだった。
「ううん、なんでもないよ」
「そう?」
笑って、手をひらひらと振る。
もしかしたら、見間違いだったのかもしれない。
妄想を繰り広げていたせいで幻覚でも見てしまったのだろう。
そう判断し、授業に意識を戻ろうとすると、
(――――――――はい?)
空に人影をみつけた。
(は? え? うそ?)
ひなたの目には、ステッキを握りしめフリルのあしらわれたピンク色の衣装を身につけた少女が見えた。
少女の姿は俗に言う魔法少女と呼ばれる格好をしていた。
気づけばひなたは行動に移っていた。
「先生! トイレに行かせてください!」
「あ、うん。でもあと三分で授業が終わるんだけど」
「漏れそうです!」
「す、すまん。どうぞ!」
「ありがとうございます!」
ひなたは全力で走った。
魔法少女が本当にいるかどうかわからない。
もしかしたら見間違いだった可能性だって大いにある。
しかし、もし、本当に魔法少女がいるのなら――。
「――まずは捕獲よ!」
――佐渡ひなたが魔法少女になるまであと一時間。