作品タイトル不明
29「可愛いは世界を救うかもしれなくね?」①
「待たせたな、由良夏樹とその仲間たちよ」
異世界生活四日目の夕方。
魔王城の中庭に、魔王ギーゼラ・シラーが現れた。
「あ、ギーゼラさん。お話終わった?」
「うむ。簡潔に報告すると、由良夏樹たち一行の望むように、部隊を編成しブレイバーズ王国に攻め込むことで同意となった」
「さすがギーゼラさん! ちゃんと仲間と話し合ってくれたんだね」
「……いや、魔族らしく力づくで言うことを聞かせることになった」
「魔族さんこわっ!」
「お前に言われたくはないがな。いや、申し訳ない。なにかと反発が強かったのは、勇者への不満もあるが、私への不信もあったようだ」
夏樹たちは余計な口を挟まずに、ギーゼラの言葉を聞く。
「勇者由良夏樹に負けたこと、敗北後姿を見せなかったこと、突然勇者と共に現れ同盟を語ったこと……勇者に敗北してすぐの出来事だったので驚き、混乱し、悪い報告に考えてしまう者も多かったようだ」
「悪い方向ってどんな風に?」
「由良夏樹が新たな魔王になるのではないか、と」
「あはははは、そんなわけないじゃーん! 俺はやることやったら、こんな世界からは早々におさらばしますんで、魔族さんたちの面倒は見れませーん!」
「こんな世界か……言ってくれる。だが、その通りだな」
夏樹としては、馬鹿な妄想をしたものだと笑うしかない。
この世界の人間に比べたら魔族は善良であろう。ぜひ、魔族たちのこの世界の支配者になってほしいと思うのも事実だ。
だが、魔族を導きたいとは思わないし、この世界に永住したいなんて思いもしない。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというが、異世界人が大嫌いな夏樹にとってこの異世界ごと嫌いなのだ。
魔族がどうこう、世界がどうこうではなく、もうそういうものだから仕方がない。
グランドルやオッくんのような素敵な紳士もいるとわかっていても、魔族と共に歩む気は微塵もない。
幸せになってほしい、と願うだけだ。
「つーか、仮にも魔族は実力主義なんだから仮に俺が魔王でも従えよ。黙ってうんって言えよ」
「……やはりお前が人間ということがネックだったのだろう。強制労働をはじめ、圧政を敷くに違いないとみんな泣いていた」
「魔王よりも魔王じゃん! そんなことしないよ! そ、そんな悲しいこと言うなら、なっちゃん本気出して魔族支配してすっげー広い地下でよくわかんない歯車をぐるぐる回させるよ!?」
「意味がわからん!」
夏樹は政治のこともよくわからないし、誰かを動かすなら自分で動いたほうが早いと考える人間だ。
そんな人間に王など務まらない。
「魔王さんは頑張っていると思うかっぱー。城の中を少し見させてもらったけど、魔族さんたちは魔王さんを信頼しているかっぱー。だからもっと自信持っていいと思うかっぱー」
「……そう言ってもらえると嬉しい。……ん?」
肩を叩き、慰めてくれる河童さんの存在にギーゼラは気づき、目を丸くする。
「ひとり増えている!? いや、そんなことよりも、なんだこの可愛らしい生き物は!」
「……さすが魔王だっぺ。素晴らしい審美眼の持ち主だっぺよ」
初見で河童さんの可愛らしさに気づいた魔王に夏樹は涙を流して拍手を始めた。