作品タイトル不明
22「ーーありえないんじゃね?」①
異世界生活四日目の朝。
水の魔術で顔を洗っていた夏樹が、ふいにつぶやいた。
「――テント生活飽きちゃった」
「……お前な」
「まさか夏樹くんがそんなこと言うんだ!?」
「なっちゃん」
「夏樹くんが言っちゃうんだ」
「びっくりやわ」
隣で顔を洗って歯磨きをしていた、千手、祐介、円、一登、東雲が夏樹に呆れた顔を向ける。
「由良……お前、飽きたって。まあ、俺たちも自らの安全のためにテント生活しているから、キャンプと違って飽きるのは仕方がないんだろうが。――一番、この世界で生活するのを拒否っていたお前が言うな!」
「違うよ、千手さん! キャンプは飽きてないよ! 毎日が楽しいよ! でも、そろそろ、もっと本格的なものに移る時期だと思うんだ」
「本格的なって言われてもな」
千手たちは、テントをはじめ魔王城の中庭に広げられた本格的な装備の数々を見る。
ゴッドマネーということで、夏樹をはじめ千手たちもキャンプに興味があったのでいろいろ道具を揃えさせてもらったのだ。
「十分すぎるほど本格的だろ?」
「甘いよ、甘いよ千手さん! まるで俺が持ち歩いているチョコレートバーのごとく甘いよ!」
「……朝からテンション高くてうぜぇ。んで、結局なにがしたいんだよ?」
「小屋を建てたり、木と木にハンモック吊るしたい!」
「それはサバイバルだろ! 海外の動画見過ぎだ!」
歯ブラシを銜えた千手に引っ叩かれてしまう。
「せやでなっちゃん。そういうんは地球でやろ」
「……円ちゃん」
「さすがに僕も付き合ってあげることはできへんけど」
「円ちゃん!?」
いくら幼少期の思い出がある円でも、サバイバルに付き合ってはくれないようだ。
夏樹はしょんぼりしながら、歯を磨く。
「由良夏樹よ」
「あ、征四郎さん」
「夏樹さん、おはようございます!」
「義政先生、おはようございます!」
ひと足先に起きて身だしなみを整えていた征四郎と義政が現れる。
ふたりは軽く運動していたのだろう。
冷えたミネラルウォーターをアイテムボックスから投げ渡す。
「ありがとう。今、サバイバルと聞こえたが?」
「そうそう! サバイバルしたいなーって!」
「……経験者から言わせてもらうと、やめておけ。正直、辛い」
「あ、そういえば征四郎さんって山籠りしていたんだっけ?」
家宝の魔剣を銀子に奪われた征四郎は、復讐するために力をつけようとして山籠りをしていた。
その結果、十束剣に一時的な所有者として操られた過去がある。結局、山籠りしたものの、征四郎は銀子へ勝てないとわかり、彼女の黒歴史をバラすという搦手を使おうとしたが夏樹によって阻まれている。
――山籠りとはなんだったのだろうか。
「ああ、もう二度とやらん。虫は出るし、蛇もいるし、物音でびっくりするしで気が休まらん。食料がなく木の実を食べては腹を壊し、水を飲んでは腹を下し、散々だった」
「想像以上に過酷なサバイバルしてた!」
「テントがあって、当たり前に食事が取れることに感謝しておけ」
「う、うん。わかりました。サバイバルしたいなんて言いません」
「よろしい」
征四郎の体験談を聞き、夏樹はサバイバルを諦めた。
魔王たちも今日には結論を出すだろう。
そうすれば、暇を感じることなく忙しくなるに違いない。
「とりあえず、ご飯にしようか?」
夏樹がそう提案した時だった。
「夏樹ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「夏樹くぅうううううううううううううううううん!」
小梅と銀子がソーニャと共に全力で走ってくるのが見えた。
「姐さんも青山も朝から元気すぎだろ」
千手がうがいをすると、朝の一服とばかりに電子煙草を加えた。
「大変じゃぁあああああああああああああああ!」
「大変っすよぉおおおおおおおおおおおおおお!」
目の前まできた小梅と銀子は汗を流し、本当になにか起きたように焦っている。
「どうしたの?」
「昨晩、ソーニャやフェイリスといい感じに酔っ払って二次会を宝物庫でやったんじゃが」
「なんで!?」
「それはどうでもええんじゃ! 焼酎をロックで飲んで酔っ払ったフェイリスが宝物庫の棚を倒しよってな!」
「そこからえらいもんが出てきたんすよ!」
小梅と銀子が揃って慌てているのだからよほどのものが出てきたのだろう。
気になるのは、ソーニャがそんな小梅たちに「わけがわからない」といった顔をしているところだ。
地球側の者じゃなければわからない何かがあったのかもしれない。
夏樹だけではなく、一同がごくりと息を呑む。
「……聞いて驚かないでほしいっす!」
「落ち着くんじゃぞ!」
「そんなに念を押す何かがでてきたの!?」
ふたりは頷くと、声を揃えた。
「――河童のミイラが出てきたんじゃぁあああああああああああ!」
「――河童のミイラが出てきたっすぅうううううううううううう!」
「――――は? なんて?」