作品タイトル不明
21「ファンタジーと言ったらオークさんじゃね?」③
「夏樹くーん! なーに、オークさんとしんみりしているっすかー!?」
「……銀子さん」
しんみりしていた夏樹とオッくんの前に、ほろ酔いの銀子が缶ビールを持って現れた。
一本をぐびぐびと飲み、まだ封を開けていない冷えた一本をオッくんに渡した。
「ありがどう」
「いいっすよ、いいっすよ! いやー、ファンタジー代表のオークさんとこうやってお酒が飲めるなんて私も偉くなったもんっすよ! シラフに戻ったら、ドギツイ体験談聞かせてくださいね、新作の構想にしたいんっすよ」
「銀子さーん!?」
オッくんは銀子の言葉の意味がわからず首を傾げながら美味しそうにビールを飲んでいたが、夏樹にはわかった。
「一応、言っておくけど。オーガさんと同じように、オークさんもくっころ効かないからね?」
「ああっ、そうだったっす! なんて夢も希望もない異世界なんっすか!」
「くっころに夢も希望もねーよ!」
「――くっころ、と聞いて!」
「ほーら、銀子さんのせいで祐介くんが生えてきちゃった!」
「……僕をキノコみたいに」
「お酒飲んでないのにどんちゃん騒ぎできる祐介くんなんてキノコ系のモンスターの幻覚胞子だよ!」
「くっころ」に反応して鋭い速さで祐介が現れた。
先ほどまで彼と肩を組んでいたエルフたちが、急に消えた祐介が離れた場所にいることに気づき愕然としているのが見えた。
「いやー。エルフさんって最高だね! 僕は受けでも攻めでもいいよ!」
「絶好調だね! 本当に飲んでないの!?」
「祐介くん……詳しくお話しくださいっす!」
「そして銀子さんも絶好調! あ、そうだ。銀子さんに言わなければいけない悲しいことがあるんだ」
「悲しいことっすか?」
なんのことやら、と不思議そうな顔をする銀子を夏樹は直視できなかった。
恐る恐る、口を開く。
「――銀子さんのビールがあと二箱しかないんだ」
「なんですってぇええええええええええええええええええええ!?」
「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
激昂した銀子は手に持つ缶ビールをすべて飲み干すと、ぐしゃり、と潰した。
「って、それはしょうがないっすよ」
「ほえ?」
「だって、最初こそそれぞれ好きなビールを飲んでましたけど、魔族さんたちにも振る舞ったじゃないっすか。だから順番に飲んで行こうってなったんすよ。あれ? 夏樹くんもその話したときにいたっすよね」
「そうだっけ?」
「というか、夏樹くんのアイテムボックスから出すんっすから、夏樹くんが選んで出しているはずじゃないっすか?」
「…………かもしれない」
そんな話をしたような、しないような。
お酒に興味がない夏樹は覚えていなかった。
ただ、銀子の好きな銘柄がなくなりそうということに、パニックを起こしていたというのも理由にある。
これが東雲が選んだ銘柄であれば、「ごめん、おわっちゃったー」で済んでいたはずだ。
「よかった。てっきりビールがなくなって銀子さんがダークサイドに堕ちるかと思った」
「……どれだけビール好きって思われているっすかね!?」
失礼な、と頬を膨らませる銀子は、新たな缶を開けて続けた。
「好きな銘柄はありますっけど、ビールは全部最高っす! それに芋焼酎もウイスキーも出番を待っているっすから、問題ないっす!」
「さすが飲兵衛……言葉の重みが違うよ!」
「どや、っす!」
ドヤ顔をする銀子は思い出したようにハッとする。
「そうっすよ! 芋焼酎とソーダを出して欲しいっす! ソーニャさんが焼酎ソーダを飲んでみたいと言うので、振る舞ってあげようかと!」
「はいはい。芋焼酎のソーダ割りはいりまーす!」
銀子は嬉しそうにアイテムボックスから取り出された芋焼酎とソーダを抱き抱えると、ソーニャたちのもとへ向かう。
歓声で迎えられた銀子は、伝説の剣を引き抜いた勇者のごとく瓶を掲げていた。
「よぐわがんねえが、なっちゃんが楽しそうでよかっだ」
「――きゅん。なにこのオークさん、とても深く慈しみのある優しい瞳……祐介くんときめいちゃう!」