作品タイトル不明
19「ファンタジーと言ったらオークさんじゃね?」①
由良夏樹は震えていた。
「――銀子さんの愛飲するビールがもう二ケースしかない!」
数にすると二四本だ。
あまりにも少ない。
身体が震える。
現在、銀子をはじめ小梅の音頭で異世界三日目を祝っての宴会が始まっている。
魔王ギーゼラが本気でブレイバーズ王国を潰すことを決意したことで、再度話し合いが必要となったのだ。
「……やばい。銀子さんのビールだけ無くなっているってどういうこと!? 小梅ちゃんたちのはまだ余裕で残っているのに」
スーパーで買い出しをしている時、それぞれ好きな酒を買っていた。
ビールなんてどれも同じじゃん、と思う夏樹に「ちっちっち」と指を振り、それぞれ違うラベルを選んでいた。
聞けば、味の濃さ、喉越し、炭酸の強弱、製法など違うらしい。
他にも糖質がカットされたものや、アルコール度数が低いもの、クラフトビールと幅広くあるようだ。
夏樹には未知の世界だ。
どちらかというと、ビールよりも水を重要視している夏樹は「やれやれ大人って」と苦笑しながら大量のミネラルウォーターを買っていた。
「しっかし、魔王さんが重要な会議をしているっていうのに……」
小梅たちと乾杯しているのは、オーガ族族長のグランドルとゴールン、ガイオンをはじめとしたオーガたち。エルフ族族長フェイリスとお付きのエルフたち。ソーニャをはじめとするダークエルフたち。獣人族の長や、祐介と戦ったダナーもいる。
彼らはすでに魔王に従うと決めている。
むしろ、人間と本気で戦えるのは大歓迎としている。
今、魔王と話をしているのは、もう少し時間が必要ではないか、という意見の魔族たちだ。
夏樹が壊滅させた魔王軍の立て直しにまだ時間がかかるので、せめてそれだけの時間がほしいという魔族の意見が大半だが、中にはもう人間と戦いたくないという弱気な者たちもいる。
祐介くんは「魔族さんたちがたくさん! ひゃっはー!」と大喜びをしている。
そんな祐介にちょっと引き気味の魔族たちだが、お酒の力もあるようで、そこまで気にした様子がない。
男性エルフと肩を組んで歌う祐介くんが、ときどき「やだっ、エルフさんってイケメンすぎ……この胸の高鳴りは、恋?」なんて言っているがとてもどうでもいい。
グランドルが星熊童子と一緒にお酒を飲んでいて幸せそうなのがほっこりする。
飲み比べをしているようだが、オーガと鬼のどちらが酒が強いのか気になるところだ。
「……どうしようか。予定ではあと数日で異世界人ぶっ殺して帰るんだろうけど、それまでもたないよねぇ」
「勇者、どうしたぁ?」
「いやぁ、準備してきたお酒の一部がなくなっちゃってねぇ。飲兵衛さんが暴れないか怖いのよ」
「異世界の酒はうまいもんな。おでもたくさんのんだぞ。ありがとな、勇者」
「いいよいいよ。みんなで飲んだほうが美味しいだろうし、たのしそうだ」
「ぐへへ。勇者は怖いと思っていたけど、おでの勘違いみたいだ」
「そうだよー。ギャラクシー河童勇者怖くないよー……って、どちら様ですか!?」
いつの間にか夏樹の隣に座っていたのは、缶ビールをうまそうに飲んでいる魔族だった。
大変失礼であるが、第一印象は――豚の魔族だ。
緑色の肌に、二メートルを優に超える巨体。腹が出ているが、贅肉ではなく筋肉とすぐにわかった。袖のないシャツから覗く腕は逞しい戦士のそれだ。
「――もしかして、オークさん?」
「おう! おでは、オーク族の戦士オックンだど!」
「うわぁ! オークさんだぁ!」
夏樹は瞳を輝かせ、子供がサンタクロースを見つけたように破顔した。