軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18「ある意味安定していてほっとするんじゃね?」

ブレイバーズ王国国王サイラス・ブレスコットは、玉座でくつくつと笑っていた。

すべて自分が望む通りに動いていくことに、笑いが止まらなかった。

この場に誰もいないが、気を抜けば大声で腹を抱えて笑い転げそうになる。

「絶望の神などと胡散臭い神だが、傍に置いてみると私の思う通りにしかならぬな。私にとっては幸福の神だ」

サイラスは、五十を超えた白髪交じりの金髪の男性だ。

背は小さく、小太りだ。

威厳のために生やした髭も似合っていない。

強面の息子のほうがよほど王としての面構えをしていると、臣下からも笑われていた。

そんな陰口も今は心地よい。

サイラスは絶望の神ぜっくんと契約をしていた。

契約内容は簡単なものだ。

ブレイバーズ王国の全ての人間を捧げる。

代償として、理想の肉体と絶対的な力を与えるというものだった。

実に利己的な契約だ。

捧げられた人間の意思など知ったことではない。

そもそも、王族にとって民など言葉を交わすだけの家畜だ。

サイラスにとって、魔族も民もさほど変わらないのだ。

「――陛下!」

ヒステリックな声に、サイラスは心地よさから現実に引き戻されて不機嫌な顔をする。

視線を向けると、正室であるキャメロン・ブレスコットだ。

第二王子ルーサー・ブレスコットの母であり、サイラスにとって正室である。

四十を過ぎた女性であるが、身なりには人一倍気を遣っているため、三十ほどの若さと美貌を保っている。

「どうしたキャメロン。愛する男が死んで傷心の身でありながら、気丈にそのような大きな声を出して」

「…………陛下の誤解を解きにきたのです」

「誤解とは?」

「ルーサーのことです」

「わかっている。ルーサーは我が友であり忠臣であるランドル騎士団長の子だ」

「ち、違います!」

「まことか?」

「もちろんです! 誰でしょうか! 陛下のお耳にそのような戯言を入れたのは!」

はぁ、とサイラスは嘆息する。

出会ったときから、彼女のヒステリックな声が嫌いだった。

「キャメロンよ。そなたの親しい者、付き従っている者を思い浮かべてみよ」

「……どういう?」

「お前の脳裏に浮かんだ者たちが、全員私に密告したぞ。お前とランドルが通じていると」

「な」

絶句しているキャメロンを見て、ようやくこの時が来たとサイラスは笑う。

ずっと知っていた。だが、気にしなかった。

政略結婚だ。愛はない。国を運営するために結婚をする。王族としての責務だ。それは貴族でも変わらない。

愛した相手以外と結婚することは多い。

夫婦としての役目を終えた男女が本当に愛する者と密会することは、貴族にとってよくある話だ。

だが、暗黙のルールはある。

あからさまな行動や、托卵は絶対的に駄目だ。

とくに貴族の後継や、王族の子を托卵などしては絶対にいけない。

ブレイバーズ王国は、誇り高き血を引く一族だ。

王族はもちろん、貴族たちも同じだ。

その血に、どこの誰ともわからぬ者の血を入れることはならない。

お付きの使用人たちも、基本的に味方ではあるが、一線を越えた者が転落することはわかっているので托卵だけは報告してくる。

「まさか、宰相の妹であるそなたが貴族の絶対的なルールを破るとはな。別に子を産むなと言っているのではないぞ。だが、王にしようと企むのはよろしくないな」

「へ、陛下、私は」

「ベアトリスもランドルの娘であろう?」

もうキャメロンは言葉さえ出てこない。

口をぱくぱくと動かしているだけだ。

「まさか友に裏切られているとは思わなかったぞ。まあ、それはいい。しかし、知っているか? ランドルはベアトリスと関係があったそうだぞ? 私はてっきり勇者由良夏樹に懸想していると思ったのだが、実に面白い」

「あ、あの子は」

「わかっている。ベアトリスは何も知らない。だが、ランドルはどうだったのだろうか? 聞くことができず、残念だ」

ランドルがベアトリスを娘と知って手を出していたのかどうかわからないが、さほど興味があるわけではない。

サイラスとしては、勇者由良夏樹の血を王族に入れたかった。できることなら、彼を王に、とさえ考えていた。

サイラスにとって絶対的強者である勇者由良夏樹は理想だった。

あのようになりたいと何度願っただろうか。

「る、ルーサーもベアトリスも陛下の子です!」

「安心しろ。そのことを気にしているわけではない」

「……陛下のおっしゃる意味が」

「お前はトレイシーが王になると思っているだろうが、それは違う。私はルーサーもトレイシーも王にするつもりはない! 私が、私こそが! ブレイバーズ王国の王であり続けるのだ!」

――その頃、勇者由良夏樹は。

「やっべっ! 銀子さんのビールが終わっちゃう! どうしよう!」

異世界に来てから絶対的な危機に陥っていた。