作品タイトル不明
17「根回しは大事じゃね?」②
「顔をあげてほしい」
頭を下げる夏樹に、ギーゼラはおもむろに声をかけた。
彼女の言葉を受けて、夏樹は顔を上げる。
「勇者に関しては承知した。由良夏樹と仲間たちに助けられているのだ。我々も少しでも報いたい」
「――魔王さん……ありがとう」
夏樹はほっとした。
魔族たちにとって、勇者は因縁ある存在だ。
その元凶は言うまでもなく夏樹にあるのだが、ギーゼラたちは受け入れてくれた。
彼女たちの懐の深さに感謝するしかない。
「私たち魔族はなにをすればいい?」
「正直なことを言うと、ブレイバーズ王国の『人間だけ』を殺すなら、俺だけでいい」
「……そうだな」
魔族が弱いと言うつもりはない。
人間とスペックが違うので、戦えば魔族が勝つだろう。
しかし、人間は数が多い。
異世界人に対して良い感情を抱いていないからこそ、夏樹にはわかる。
勇者が戦えなくなれば、異世界人は末端の兵士を大量に送り込んでくる。
要は使い捨ての駒だ。
そして、兵士は死にたくないので、死に物狂いで襲いかかってくるだろう。
一人なら問題ない。
だが、二人、三人と増えるとだんだん厳しくなる。異世界人ならば、捨て駒の兵士ごと魔法で魔族を焼き払うことくらいは呼吸するようにするはずだ。
そんな戦法しかしないくせに、数が多く、中にたまに強い人間がいるので魔族を相手に「負けていない」のだ。
そこに夏樹が現れ、たった一人で戦場をひっくり返した。
魔族に被害があったが、人間も同じだ。夏樹のおかげで兵が怠け、弱くなった。
「魔族さんたちが人間を倒さなければ、意味がない。他ならぬ、魔族さんたちが納得しないだろうと思う」
「――その通りだ」
「問題は異世界人の数だけど、その兵士たちだって魔族を舐めているはずだ。魔王軍が壊滅状態なのは、ブレイバーズ王国軍の活躍のおかげだって、どうせ思っているはずだからさ」
「実際、そう言っている」
「でしょう? だからさ、わからせてやればいいんだ。もう対話は無理だ。どちらかを滅ぼす戦争だと決意し、この世界から人間を排除するんだ。今だからこそ、勝てる。長引けば、奴らはどれだけ犠牲を出しても一部の人間だけが生き残ればいいと考えて行動するはずだよ。それは厄介だ」
夏樹がこの世界に戻ってこない場合、生き残っていたブレイバーズ王国の残党が日本から佐渡祐介が召喚されることになる。
その結果、人間が魔族たちとどうなったかまでわからないが、人間の尊厳を平気で踏み躙ることができる者たちだけが生き残る未来は避けたい。
犠牲が少ないうちに、早々と決着をつけるのだ。
「俺たちはもう準備はできている。あとは魔族さんたち次第だ」
夏樹が真っ直ぐギーゼラを見ると、魔王は視線を合わせ頷いた。
「――わかった」