作品タイトル不明
16「ガープさんはお掃除もできる魔族なんじゃね?」
新たな神々についた高位魔族であるガープは、ふりふりエプロンを身につけながら、懸命に血まみれの部屋を掃除していた。
「ちょっと!? なんで俺が床掃除しなきゃいけないわけ!?」
「ごめんね、ガープさん。杏も手伝うから」
「当たり前だろ! つーか、なんで俺が部屋掃除しなきゃならないんだって聞いているんだよ! メイドたちにやらせろよ!」
「だって、みんな杏のこと無視するんだもん!」
「そりゃ、お前がメイドたちから大人気の王子を殺したからじゃねえか! 自業自得だよ!」
「杏悪くないもん!」
杏は、ブレイバーズ王国第二王子であるルーサー・ブレスコットを殺害した。
その理由は気持ち悪いから、という至極身勝手なものだった。
いくら勇者であっても、殺した相手が悪すぎた。
ルーサーは、国王サイラス・ブレスコットの正室の子だ。彼を次の王に推す声も多数ある。
杏もさすがに今回はまずいと思ったようで、ガープに相談した。
なんだかんだと面倒見のよいガープは、サイラス国王のもとに杏と共に向かい、ルーサーの殺害を詫びた。
ガープとしては、ブレイバーズ王国の味方ではないが、拠点として借りているのでそれなりに付き合いはある。
ただ、ブレイバーズ王国が杏を敵と見做し殺そうとするのであれば、これを機に地球に帰るよう説得しようとも思っていた。
しかし、ガープはもちろん杏も大いに驚くことになる。
ルーサーを殺した杏に、怒気を放つ王妃や、殺意を明確にする貴族たちの視線を向ける中、王だけが感情を動かさず「なぜ殺した?」とだけ尋ねた。
ガープが適当な理由付けをしようとしたが、杏は何も考えずに「気持ち悪いことされたから」と彼女にとっての事実を言ってしまった。
これには、ガープも「あちゃー」となった。これでブレイバーズ王国は杏を敵とするだろうとも確信した。
――だが、違った。
サイラス国王は呵呵大笑すると、「気持ち悪いなら仕方がない!」と言い放った。
これにはその場にいた誰もが、ガープでさえ絶句した。
実子を殺されて怒るどころか、笑うなど、信じられなかった。
さらに王は続けた。
「我が子ではないので、痛くも痒くもない」
その言葉の意味を杏とガープが理解するのにしばらくの時間が必要だった。
それは周りの貴族たちも同じだ。
ただ、王妃だけが顔を真っ青にして小刻みに震えていた。
――つまり、そういうことだ。
王妃は言い訳をしようとしたが、サイラス国王が感情がなにもない目を向けると、静かになった。
王子が殺されたことよりも、大きな問題に発展しそうな雰囲気の中、王は杏に告げた。
「罰として、ルーサーの血で汚れた部屋を掃除するように」
たったそれだけだった。
ルーサーが実子でなかったことへの口止めもせず、杏に笑顔を浮かべているサイラス国王に、ガープは人間を怖いと思った。
サイラス国王は「メイドに手伝ってもらうのは許可しよう」と言ってくれたのだが、ルーサーはメイドたちからの人気が高かったことから、誰一人として杏に協力してくれる者はおらず、ガープが頑張っている。
「異世界って怖いな。俺も長いこと生きているけど、こんなクズばっかりな国は初めてだよ」
ガープが呆れたような顔をしながら、雑巾を変えて血を拭っていく。
「待たせたな、バケツの水を変えてきた。ついでにブラシを借りてきたので、これを使おう」
「アマイモン様! さすがアマイモン様です! このガープ、この部屋を新築同然にきれいにしてみましょう! そうだ! この屋敷をアマイモン様のお屋敷にしてしまいましょう! アマイモン様ならば王宮がふさわしいのですが、あんなクズどもばかりな場所ではアマイモン様の高貴な身が汚れてしまいますゆえ!」
「気遣いは無用だ。ガープが良くしてくれるので、不便はない」
「――っ、このガープ! アマイモン様に一生ついていきます!」
バケツの水を取り替えて、ブラシを持ってきただけでこれでもかとアマイモンを讃えるガープに、杏は困惑顔をした。
「杏、ちょっとガープさんとアマイモンさんのノリについていけないかも」
――このあと、めっちゃ部屋をピカピカにした。