作品タイトル不明
15「根回しは大事じゃね?」①
「実際問題、ブレイバーズ王国の人間を滅ぼせば魔族さんの天下になる?」
「きゅ、急に真面目になったな。お前の情緒はどうなっているだ!? ご、ごほん。まあいいだろう。ブレイバーズ王国さえ倒せば、魔族は大陸の覇者となるだろう」
夏樹の問いかけにギーゼラは断言した。
「我が魔王国と隣接する三国の中でもっとも国力を持つのがブレイバーズ王国だ。周辺諸国も、ブレイバーズ王国に戦力を集中させている」
「……自分たちは戦う気がないってことだね」
「庇うわけではないが、好き好んで戦いをする者はいないだろう」
「それでも、ブレイバーズ王国に丸投げってどうなんだろうね」
魔族との戦いを丸投げされて使い潰しされかけた夏樹としては、近隣諸国もブレイバーズ王国に丸投げしている現状に苛立ちを覚えないことはない。
だが、それはあくまでも責任を持たない近隣諸国にであり、ブレイバーズ王国に対しては「ざまあみろ」としか思わない。
もっとも、その皺寄せは夏樹にあったし、今は前線の兵士にきているのだろう。
同情はまるでしないが。
「一応、周辺諸国では戦闘面、魔法面に優れた者がいるとブレイバーズ王国に送っていると聞く。あとは、物資の支援だな。一見すると、大国であり、大陸で一番の力を持っているブレイバーズ王国だが、周辺諸国の支援がなくなれば瓦解するだろう」
「なるほど。でも、結局、ブレイバーズ王国を潰したほうが早いよね」
「そうだな。間違いない」
「ならすることは変わらないな」
夏樹が無意識に紫電を放出する。
「あの国の人間は存在悪だ。いや、この世界のすべての人間が、悪だ。ならば、殺すしかない。老若男女問わず、いずれ毒となる悪はここで断ち切らなければいけない」
「…………」
「夏樹、殺意が出とるぞ」
「今じゃないっすよ」
「おっと、めんごめんご! なっちゃんったらうっかりさん!」
夏樹は雰囲気を変えて笑う。
「さてさて問題は、いつ攻めるか、だ。向こうが動くまで待っていると、後手に回るし――なによりも向こうには神と魔族がいる」
「勇者もいるようだな」
「勇者なんてどうでもいいよ。どうせ雑魚だ。……いや、でも、特別な力を与えられている可能性があるか」
脳裏に思い浮かべるのは、綾川杏だ。
彼女はどういうわけか、魔神が持っていた剣を所有している。
その力の詳細は不明だが、杏が雑魚でも剣に依存した場合強くなる可能性がある。
夏樹だって、最初は雑魚だった。
聖剣さんのおかげで戦うことができたので、生き延びることができた。
今、夏樹が生きているのは聖剣さんの存在の有無が大きい。
聖剣さんの力の一部を自分の意思で使えるようになり、魔法を覚えてまともに戦えるまでの数日は、恐怖で眠ることさえできなかった。
「こんなことを頼むのは……躊躇いがあるんだけど」
「他ならぬ勇者の願いだ。なんでも言ってほしい」
話しておくべきことを思い出し、夏樹は躊躇いがちにギーゼラたちに言う。
「ブレイバーズ王国に召喚された勇者に、知っている顔が二人いるんだ」
「――っ、そんな偶然があるのか」
「偶然っていうか、俺への嫌がらせで選ばれた可能性があるんだけど」
「お前たちの事情を把握していないが、言いたいことはわかった。その知人は殺さずに連れて帰りたいのだろう?」
「んにゃ、違うよ?」
「違うのか!?」
「え? なんで? 別に殺してもいいんだよ。それは全然問題ない! いや、あるけど、あるんだけど、知ったことじゃねえ!」
綾川杏は、かつて義父だった綾川誠司のもとに返したいと思っている。
だが、敵対するのであれば、容赦なく殺す。
生かして道を誤るのであれば、手遅れになる前に殺してやるのもひとつの情だ。
杏に対しての情ではない。
誠司と、一登への情からだった。
「ふたりのうち、ひとりはどうでもいい。煮るなり焼くなり八つ裂きにするなり好きにしてくれ。だけど、もうひとりは、三原一登に任せてあげてほしい。――お願いします」