作品タイトル不明
12「ときめきは突然にじゃね?」②
(え? この胸の高鳴りはなに? も、もしかしてこれが――バブみ?)
この世界で過ごした数年の間、魔王ギーゼラのような言葉をかけてもらったことはなかった。
かつて自分を召喚した王女は、「勇者様はお強いのですから、兵に犠牲を強いず敵を殺してくださいますよね?」と平然と言った。
要は一人で突撃してこい、だった。
結果的に、敵を倒して戻ってくることができたが、すると王女は大いに喜んだ。その後、当たり前のように夏樹が敵陣に一人で乗り込むことが前提で作戦が立てられていた。
もちろん、そんなものは作戦といわない。
だが、異世界人たちは、夏樹を使い潰すことを決めていた。
もしかしたら、彼女たちにはそこまでの思惑はなかったのかもしれないが、夏樹はそう受け取った。
死ぬまで延々と戦わせられるのだ、と。
夏樹が戦っている間に、兵士や騎士は酒を飲んで「これで魔族に勝てる!」と喜んでいた。
ときには守るべき民から食料を強奪し、襲い弄んでいたこともある。
夏樹は最初こそ、異世界人のすることなど気にしなかったが、不愉快なのでそういう馬鹿は殺すようにした。
何度か愚かな兵士を殺すと、ついに夏樹だけが敵地や占領された土地に派遣されるようになった。
バックアップもなにもなく、本来戦うはずの騎士は安全な城で鎧を外し、剣を持つことさえしていない。
もとから期待していなかったが、異世界人への嫌悪が大きくなったのは言うまでもない。
――自分の世界で、自分の国を守るのに、なぜ自分で戦わないのだ。
夏樹が戦い続ければ、国は平和だと王も王女も民も思い込み、日常生活を続けた。
夏樹が負けたらどうするとは一度も考えていなかった。
ブレイバーズ王国にとって不幸だったのは、夏樹が一度も負けることなく魔王を倒したことだ。
地球に帰還した夏樹を「死亡」として、勇者の敵討ちだと叫んで弱った魔族を追い詰めようとしたが、勇者が戦い続けた数年の間でブレイバーズ王国兵はすっかり弱体化していた。
一部、夏樹の後方で戦っていた騎士もいたが、彼らも動けない魔族にとどめを刺すだけのことしかしていない。
(俺は俺のことを暗殺者なんて思ったことはなかったけど、そっか。まともな人から見たら、俺は暗殺者か)
単身で魔王を殺すために送られてきたのだから、確かにそうなのだろう。
ただ、夏樹としては隠れることなく堂々と真っ直ぐに魔王に向かい、途中で敵を切り捨ててきたので、暗殺者とは思うこともなかった。
「やっぱり俺って扱い悪かったんだなぁ」
「……い、今さらか」
(種馬扱いされた祐介くんとどっちがましだろうか? いやぁ、どっちもどっちだなぁ)
「実を言うと、勇者由良夏樹の扱いの悪さは魔王軍でも有名だった。なぜ人間に従っているのか不明だと悩んだこともある。籠絡できるのではないかと何度も試そうとしたのだが」
「俺、籠絡なんてされたことないけど?」
「そうだな! 誘おうと声をかけるよりも早く首を刎ねられてしまえば、籠絡などできぬ!」
「あー」
ごほん、とギーゼラが咳払いをした。
「それはいい。とにかく、ブレイバーズ王国にお前が単身で乗り込むことはしなくていい。仮に乗り込むのであれば、――共に行こう」
「――きゅんっ」
悪意などかけらもない真っ直ぐなギーゼラの言葉に夏樹が胸を抑える。
「ちょっと、あたしの夏樹をときめかせないでちょうだい!」
「ときめかせ……なんのことだ?」
ギーゼラは自覚がないようだ。
聖剣さんが不満そうに頬を膨らませる。
その時だった。
「ときめき警察っす!」
「出入りじゃ!」
銀子と小梅が部屋の中に飛び込んできた。
「ここに未成年をときめかせた悪い幼女魔王がいると通報があったんじゃ!」
「これは逮捕案件っすねぇ!」
「なにを言っているんだ、お前たちは!?」
唐突過ぎる容疑に、さすがに意味がわからないとギーゼラが叫んだ。