軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9「お煎餅にはやっぱりお茶じゃね?」③

お菓子を一通り堪能したギーゼラは、夏樹がくれたお菓子を今ここですぐにすべて食べてしまうことは良しとせず、大事に布で包んで執務机の中にしまった。

ラーラとオズワルドも、ギーゼラに倣い、甘味の誘惑を堪えていた。

「……このようなことを聞くのは……なんだが、これらのものはこちらの世界でも作ることは可能だろうか?」

「うーん。俺は詳しいわけじゃないけど、材料さえ揃えばできるものはあるんじゃないかな」

「教えを乞うことは可能だろうか?」

「構わないよ。俺としては、人間どもを鏖殺したら魔族さんたちには平和で豊かな日常を送ってほしいと思っているんだ。娯楽、食事、あと銀子さんなら酒もっていうんだろうね。伝えられる知識は渡そうと思っているし、時間があれば一緒にやってみよう」

「――っ、夏樹よ……そこまで魔族のことを考えてくれているのか?」

驚きと、感謝の感情を向けられ、夏樹は頬をかく。

「……俺はさ、この世界の人間が本当に嫌いなんだよ。だけど、魔族さんたちのことは嫌いじゃない。好きかって問われたら返答に困るけど、早く戦争なんてくだらないことを終わらせて、平和に過ごしてほしいって心から思っているのは間違いないよ」

「その気持ちだけで十分すぎる」

(感謝されても困るっていうか、なんていうかー)

夏樹は、かつて勇者として魔族を殺してきた。

憎かったわけではない。

ただ、自らの行動を阻む者として機械的に駆逐してきただけに過ぎない。

そのことに罪悪感がないといったらきっと嘘になるのだろうが、当時はなにも思わなかった。

むしろ、故郷に帰りたいだけだから邪魔をしないでくれと叫ぶ夏樹に襲いかかる魔族たちは敵でしかなかった。

仮に、召喚した人間の王を殺せば元の世界に帰れるというのなら、何の躊躇いなく魔族にしたように戦い、殺しただろう。

言い方は悪いが、夏樹にとって異世界での日々は地獄であり、抜け出せるためならなんでもしたのだ。そのためなら、この世界の人間であろうと魔族だろうと何人死のうが関係なかった。

おそらく、夏樹の気持ちを理解できるのは、同じく勇者召喚をされた祐介くらいだろう。

――しかし、だ。

再びこの世界に来て、地球で小梅たちと出会い触れ合ったことで壊れていた心が少し癒えた状態の夏樹は、「もう少しやりようがあったのではないか」と思わなくもない。

「たられば」を考えても仕方がないことだが、エルフの族長フェイリスをはじめ、夏樹に近しい人が殺されたことによって現在しなくていい苦労をしている者もいれば、復讐心を殺して魔族の未来のために堪えている者もいる。

そんな魔族たちのために、少しくらいなにかをしてあげたいと思えるくらいには、夏樹はこの異世界に来てから心が落ち着くようになっていた。

きっとひとりであれば、人間も魔族も関係なく鏖殺していただろう。

だが、小梅と銀子がいる。千手、祐介、一登、東雲、円、征四郎、義政もいる。星熊童子、虎童子、熊童子、澪と都もいる。

仲間たちがいてくれるからこそ、心が保たれていた。

「きっと俺に頼らなくたって魔族さんは発展していくだろうし、俺の知識なんていらないっていう人もいるんだろうけど。ま、利用できるものは敵でも利用しろって感じで、受け入れてくれると嬉しいよ」

「……利用など、そのようなつもりはないが、お前がそう言ってくれることで受け入れることに抵抗のある魔族たちも落とし所を見つけることができるだろう。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

ただ、決して罪滅ぼしではない。

命を奪ったことに言い訳もしない。

夏樹は、前に進むだけだ。

魔族もそうあってほしいと思う。

「それじゃ、人間たちをぶっ殺す話をしようか」