作品タイトル不明
5「遠足の準備は念入りにじゃね?」②
「そう言ってくれるな。彼らの行動理由もわかる。長い時間、自らを鍛えることに費やしながら、戦いができない。それは、苦痛だ」
「戦わなくていいならそれでいいのにさぁ」
夏樹も異世界から帰還後は神々や魔族との戦いに心を踊らせていたのだが、一ヶ月も満たない間にビッグネームとの邂逅と戦いが続き、もうお腹いっぱいだ。
少しゆっくりしたいと思っているので、異世界でも殺し合いになるであろうバトルが待っていることに辟易する。
だが、少しだけ、本当に少しだけだが、短く言葉を交わしただけでわかる強者であるアマイモンと戦ってみたいという気持ちもある。
「ガープとアマイモンは単純でいいが、問題は絶望の神ぜっくんをはじめとした新たな神々と女神アテーナーだ」
「ま、そこだよね。問題は」
「ぜっくんは、この世界で神話を作ろうとしている。どこまで本気かは彼の言動から読み取ることはできないが、賛同する新たな神々、我々のように同調する神々魔族も数多いる。上位の存在から下位存在まで、なかなかの数だ」
「うへぇ」
「私が厄介と思うのは、名前こそ知らぬが世界を行き来できる新たな神がいることだ。どのような力で世界を渡ることができるのか、正直わからぬよ」
「……どちらかって言うと、最初にぶっ殺しておかないといけない奴だよなぁ」
ゴッドレベルのことができる存在があちら側にいるというのはなかなか厄介なことだ。
単に、世界を渡ることができるだけなのか、それとも相応に強くあるのか、フン・フナフプにもわからないようだ。
「アテーナーは、この世界に連れてきた神々や天使を部隊化し魔族を蹂躙する準備中だ。その筆頭には、アテーナーが選んだ勇者もいるんだろう」
「……杏だ」
一登が唇を噛む。
利用されているのだろうが、勇者として戦場に立てば、仮に夏樹が何もせずとも死ぬ可能性がある。
魔剣を持って気が大きくなっているのか、それとも別の要因か、杏の行動も気にしなければならないだろう。
「由良夏樹と三原一登と因縁があるそうだが……彼女の実力はさておき、手にしている剣は厄介だ。心してかかるとよいだろう」
「そうするよ」
「うん。ご助言ありがとうございます」
杏が持つ剣は、なぜか聖剣と思い込んでいるが、実際は魔神が持っていた魔剣だ。
夏樹は魔神と戦っているが、何かする前に、魔剣ごと腕を切り落としてしまったので、魔剣魂喰らいの力を知らない。
「人間たちはどうしているんだ?」
手を挙げたソーニャの疑問に、フン・フナフプは答えた。
「――王位を争いドッロドロになっているようだ」
「さすが人間! こんな時でも変わらねえな!」
夏樹が魔王を倒し、魔王軍は壊滅状態だ。
そんな状況下で魔族を追い詰めるのではなく、王位争いをしているのはさすが異世界人だと夏樹は感動さえ覚えてしまう。
「さすがに人間たちの詳細までわからぬが……ぜっくんが裏でコソコソやっているらしい」
「あいつ、マジでやりたい放題だな!」
異世界人の人間性もあるだろうが、間違いなく背後で煽っているのはぜっくんだろう。
(あいつは絶対、この世界で仕留めるぞ)
「そういえば……気になることがひとつあるのだが」
「どったの?」
大方の人間サイドの説明が終わると、フン・フナフプは腕を組んで思い出すように語った。
「複数人勇者がいるようだが、その中に綾川杏の知己の者がいるようだ」
「え?」
「どういう、意味ですか?」
夏樹と一登が顔を見合わせる。
もしかしたら、知り合いかもしれない。
「――松島明日香……と言う名だった気がする」
「えぇえええええええええええええええええ!?」
「なぜですかぁあああああああああああああ!?」
その名を昔から知る一登と、同級生である都が驚きに絶叫した。
しかし、夏樹は、
「え? 誰?」
思い出すことができず、首を傾げていた。