作品タイトル不明
2「異世界人の野心なんてこんなもんじゃね?」②
「あ、はい。杏も応援しているので、頑張ってください」
杏は作り笑いを浮かべて立ち上がる。
異世界の人間が魔族とどのような関係を構築しようが知ったことではない。
杏の目的は、あくまでも夏樹を「救う」ことだけなのだ。
「――お待ちください。勇者様、なにかお気に触ることをしてしまったでしょうか?」
「……杏は、人間と魔族がどんな関係になっても気にしないです」
「ほう」
ルーサーが目を細めた。
「なかなか興味深いことをおっしゃりますね。この国に、いいえ、この世界に勇者として召喚されたあなたが、人間と魔族の関係に興味がないと?」
「だって、杏はこの世界の人間じゃないし」
「……確かに、そうですね。別世界の方に、この世界のために戦えというのは誠実さがない」
「わかってくれればいいんです」
「――ならば、報いましょう」
「どう言う意味ですか?」
(面倒な人だなぁ)
杏はいい加減鬱陶しくなってきた。
嫌ではあるし、あくまでもついででしかないが、杏はルーサーをはじめこの世界の人間のために戦うことになる。
そんな自分を王位継承権争いに巻き込もうとする精神がわからない。
利用するなら勝手にやればいいし、知らないところで気づかずにやってくれればいい。名前なんて勝手に使ったっていい。
わざわざ面と向かって「味方となれ」と言い放ち「はい」と言わせようとしているのが明け透けで、うんざりする。
杏の苛立ちに気付かず、ルーサーはいやらしい笑みを浮かべた。
「――あなたを私の妻として迎えましょう」
「…………………は?」
「僕には幼い頃から共に育った幼馴染みの婚約者がいますが、捨てましょう。もちろん、側室や愛人にするなんてこともあります」
「…………………意味わかんない」
「驚くのも無理はありません。ですが、良い取引だと思います。この世界の支配者となる僕の正室として、勇者綾川杏様をお迎えしたい!」
杏の顔から表情が消えた。
しかし、ルーサーは気付かない。
歌でも歌うように、自らの気持ちを語り続ける。
「杏様のことを一目見た時から心を奪われていました。あなたを手に入れたいと……邪な気持ちもいだいてしまったのも確かです。ですが、これから戦う勇者である杏様と共に、僕も戦場に立ちましょう! そして、ふたりで魔族を打ち倒し、配下とし、近隣諸国を力で屈服させ世界の王になりま――」
「きもちわるいっ!」
杏は、もう聞いていられないとばかりに虚空から「聖剣魂喰らい」を引き抜き、薙いだ。
聖剣は、ルーサーの下顎から上を両断した。
よほど感情を込めて語っていたのだろう。瞳を潤ませていたルーサーの頭部がくるりと血を撒きながら回転し、壁にぶつかり、地面に落ちる。
椅子に座ったままのルーサーの身体は、顎から溢れ出た血によって赤黒く染まっている。
「――あ」
かっとなったとはいえ、ルーサーを殺してしまったことを杏は自覚した。
血に濡れた刀身と、血まみれのルーサーの亡骸に視線を行き来させ、困った顔をした。
「あ、杏は悪くないよね?」
彼女に応えてくれる者はいなかった。