軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1「異世界人の野心なんてこんなもんじゃね?」①

綾川杏は、ブレイバーズ王国王都に広がる城下町の一角にある、ルーサー・ブレスコットの屋敷にいた。

不用心と思われるだろうが、杏にはルーサーがそれほど強いとは思わなかった。

杏には聖剣魂喰らいがある。

聖剣は杏の身体能力を引き上げてくれるばかりではなく、戦いを教えてくれるのだ。

夏樹が持つ聖剣には負けたが、あれも杏と聖剣の同調率が低かったせいだ。

今ならば、勝てると自負している。

問題は、夏樹の身体を傷つけたくないというだけだ。

「まさか勇者綾川杏様が僕の屋敷に来ていただけるとは、光栄です」

「……こちらこそ、お招きどうもありがとうございます」

「いいえ、いいえ」

胡散臭い笑みを貼り付けるルーサーに対し、杏はとくににこりともせず話を聞く体勢をとる。

無駄話をするつもりはない。

こんなところを兄に見られて、おかしな誤解をされても困るのだ。

「それで、杏に声をかけたのはなぜですか?」

「勇者様はせっかちなご様子ですね。ですが、いいでしょう。まず、僕の野望からお聞きください」

「はぁ」

早く終わらないかなと思う。

一応、王子が相手なので最低限相手はするつもりだが、つまらない話に興味はない。

気持ち悪さを覚える男ではあるが、エルフの標本を作る女よりはマシだと思い、とりあえず話だけでもと考えているが、この国の人間は総じて日本人と感覚がずれているので期待はしていない。

「僕は王になりたいのです。もちろん、ただ王位を継ぐだけではだめです。僕は、長く続いた人間と魔族の戦争を終わらせた英雄になりたいのです」

頑張ってください、という言葉が出かけて飲み込んだ。

「邪魔なのは第一王子です。第一王子というと聞こえはいいですが、僕はあれを兄と認めていない。なんせ側室の息子ですからね。父が若い頃に手をつけた下級貴族の女を同情から側室にしてやったところ、どうやら調子に乗ってしまったようです。息子を王になどという夢想を描くようになり、困ったことにその息子も母親に命じられたまま王を目指している。なんと愚かな」

わかりやすい王位争いだった。

「トレイシーの奴は、僕よりも十年ほど早く生まれています。そのため、根回しも早くしていました。僕は正室の母の子でありながら、少し力が足りない。そこで、勇者様に僕の味方になって欲しいのです」

「……杏がルーサー様の味方になるのと、戦争が終わるのとどういう関係があるんですか?」

「嘆かわしい話ではありますが……ブレイバーズ王国をはじめ、人間はエルフをはじめとした魔族を我々と同じ人として扱っていません」

その言葉はすんなり杏の中に入ってきた。

同じ「人」として扱っていたら、ジョスリン・ブレスコットのように生きたまま解剖などできるはずがない。

「わかりますか? トレイシーをはじめとした愚図どもは、魔族をモンスターと同じように扱っているのです。ですから、戦争という認識ですらない。自分たちが勇者召喚をしなければいけないほど追い詰められているにも関わらず、目を背けているのです」

言葉だけ聞くと、ルーサーはまとものようだ。

しかし、杏の警戒心が、気を許すなと警鐘を鳴らしている。

「しかし、僕は違う。魔族を人として認識しています。だからこそ、今がチャンスなのです。先代勇者由良夏樹様が魔族を蹴散らし、魔王を追い詰めた。現在ならば、人間のほうが有利です。今こそ、魔族と和平を結ぶべきなのです」

「和平、ですか?」

「ええ。僕が王になれば、魔族と友好関係を築くでしょう。魔族は、人間よりも長く生きる種族です。基本的な身体能力も、人間を超えている。そんな魔族を――今なら従えることができるのです」

「あー」

杏は落胆しなかった。

こうなるとわかっていた。

「今なら魔族にこちらが有利な条件をつけて和平ができます。この機会を利用し、魔族を配下にし、ブレイバーズ王国以外の人間の国全てを支配下に置きたいのです。僕は、大陸統一がしたい!」

(――すっごくどうでもいい!)

杏は、ルーサーへの関心を一瞬にして失った。