作品タイトル不明
エピローグ「別れの挨拶は大事なんじゃね?」
ガープは、フリフリのエプロンを身につけて持ち込んでいたガスコンロを使い土鍋で米を炊いていた。
もうすぐ日が昇るので、いそいそと朝食の支度をしていた。
ガープは夏樹同様、この世界の人間が作った食事をしたくなく、アマイモンに食べさせるわけにはいかないと大量の飲料と食料を持ち込んでいた。
「……早いな、ガープ」
「おはようございます、アマイモン様! もうすぐご飯が炊けますので、しばしお待ちください!」
「感謝する。私も少しくらい手伝おう」
「いえいえ、このガープにお任せください! アマイモン様はどんと構えてくださっていればいいのです!」
尊敬するアマイモンに、家事をさせるわけにはいかない。
ガープはアマイモンが万全の体調で戦えるよう、常にサポートをするのだ。
「……ベヒモスとフン・フナフプが遅いな」
「どうせ由良夏樹に負けたか、寝返ったのでしょうね」
「ふっ、心にもないことを。ふたりの茶碗まで用意しているではないか」
「……ま、まあ、奴らも数日ですが同じ釜の飯を食った仲ですからね」
ガープは、ベヒモスとフン・フナフプを仲間とは思っていない。
それでも、異世界で暴れようとする志を持つ者としては認めている。
フン・フナフプの場合は、ぜっくんへの義理が大きいようだが、些細な問題だ。
実際、ぜっくんがしたことといえば、この世界を教え連れてきただけだ。
フン・フナフプが恩を感じる必要はないと考えている。
「おっと、ご飯が炊けましたね。しばらく蒸らしますので、お待ちください」
「わかった」
その間に、ささっと味噌汁の支度に取り掛かる。
だしをとり、味噌を入れて味を整える。豆腐を入れて、乾燥わかめを入れた。
「ただいま帰ったぞ!」
「……おはよう。遅くなった」
厚焼き卵を切り分けていると、ベヒモスとフン・フナフプが帰ってきた。
ベヒモスは土に汚れているが、フン・フナフプと揃って元気そうだ。
「……ベヒモス、フン・フナフプ、よく戻ってきた。由良夏樹はどうだった?」
「彼は強かった。全力で戦ってみたいと思わないわけではないが……きっとそのときは来ないだろう」
「フン・フナフプ?」
「俺は大地の勇者佐渡祐介と遊んだぞ! ぼっこぼっこにしたけどピンピンしていて遊びがいがあったぞ!」
「ベヒモスにぼこされて原型を止めたままとか、やべえなその人間。……まて、そいつ確かこの国で魔族大好きって演説した奴だろ! 面白そうな奴だとは思ったが想像以上だな」
味噌汁、卵焼きをテーブルにならべ、ご飯を茶碗によそう。
味付け海苔を人数分配ると、エプロンを外してガープが着席する。
「すまないが、食事の前に話をしておきたい」
「フン・フナフプ?」
切り出したフン・フナフプは、決意した顔をしていた。
「急ですまないが、私とベヒモスっちは由良夏樹側に付くと決めた」
「はぁ!?」
「由良夏樹側に付いたからといってお前たちと敵対するつもりはなく、邪魔もしない。私とベヒモスっちは、あくまでこの世界でもうなにもしないということだ」
「……つまり、ぜっくんを裏切るって……いや、あいつは俺たちを、俺たちはあいつを利用しているだけだ。裏切るもクソもねえか」
ガープは、フン・フナフプを睨む。
「ぜっくんなんてどうでもいいが、まさかてめえらがアマイモン様を裏切るとは思わなかったぜ」
「それは誤解だ。裏切ってなどいない」
「だからってな!」
「よせ、ガープ。我々は、行動理由が違うが気があったゆえに共にいた。いわば、友のようではないか。ならば――友の門出を見送ってやるのも、友のつとめであると私は考える」
「さ、さすがアマイモン様、懐がマリアナ海溝!」
「よせ、照れるではないか。……方向性の違いでバンドが解散するよりはよい結果となるだろう。寂しくはあるが、私はベヒモスと、フン・フナフプのこれからの成功を祈っている」
「ありがたいお言葉だ、心に刻んでおけよ!」
「感謝する、アマイモン。ガープ」
「また遊ぼうな!」
フン・フナフプは深々と頭を下げ、ベヒモスは深く考えていないようでまた会えると思っているようだ。
ガープとアマイモンが今後どのような行動を取るか不明だが、もう会えない可能性があった。
しかし、誰もそれには触れなかった。
「ほら、朝食だ。挨拶して、終わりっていうのもなんだ……アマイモン様のご慈悲と思って味わって食え」
「ありがたく、いただこう」
「いただきまーす!」
――こうして、フン・フナフプとベヒモスは円満にガープとアマイモンと袂を分つのだった。