作品タイトル不明
100「オファーの時間じゃね?」②
夏樹の目からしても、フン・フナフプは大きく動揺していた。
――にちゃぁ。
夏樹は勝利を確信し、彼に手を差し伸べる。
「お前も北海道で農業しないかい? 今なら、畑のお仕事だけじゃなくて、畜産業もセットだよ? 美味しいチーズや牛乳も作ってるよ? ジャガイモも育ててるよ?」
「……ごくり」
フン・フナフプが手を伸ばそうとするが、必死で耐える。
さすが神だ。
易々と誘惑には乗らないらしい。
「お母さんがいうには、代々続く家業を潰したくないらしいんだ。近所の畑もなかなか跡取りがいなくて、もしかしたら……もしかするかもよ? フン・フナフプコーンとかフン・フナフプ牛乳とかありじゃないっすかね?」
「……ぐっ、なんという魅力的な」
「なぁに、必ずしも跡取りになれるかどうかはわからないから、俺だって無理を言うつもりはないよ。フン・フナフプさんとベヒモスさんは、この世界での戦いに干渉しなければいいよ。ちゃーんとゴッドに言って一緒に帰還できるようにしてもらうから、のんびりお茶でも飲んでててよ」
「…………し、しかし」
「へーきへーき! フン・フナフプさんが魔族に何かしたわけじゃないし、俺たちだって祐介くんがベヒモスさんにぶっ飛ばされたくらいだからさ、今なら問題なく受け入れられるってわけなのよ」
夏樹の言葉通り、フン・フナフプをはじめ、ベヒモスも、それこそガープやアマイモンも魔族と本格的に戦っていない。
今ならば、こっそり仲間にしてもバレないだろう。
戦力として戦ってもらうつもりはない。
むしろ、こちら側に引き込むことができただけで、相手の戦力を削れるようなものだ。
夏樹としては、一番厄介なアマイモンに全力を注ぐことができる。
「だ、だが、紹介料などお高いのでしょう?」
「そんなまさか! 神様から紹介料を取ろうなんて! 一応はね、うちのお母さんにご挨拶してもらって、紹介に値する人か人となりを見てもらう必要はあるんだけどさ。俺からも、ちゃんと紹介するし」
「だが、私には戸籍が」
「それこそへーきへーき! 親友に神様いるから、ささっと作ってもらえるから!」
「……まさか、そのように都合よく」
フン・フナフプの動揺は大きい。
この現代社会で生きていくのは神も大変だろう。
「……なんか、ボク……なっちゃんが悪魔に見えてきたわ」
「奇遇やね、円。自分も、悪魔の誘惑にしか見れへんよ」
安倍兄弟がなにかいっているが、夏樹は聞こえないふりをした。
「個人的なことを言わせてもらうと、こんなクソみたいな異世界でとうもろこしを作って……えっと、それで満足なの?」
「それは」
「誰かに食べてもらって、美味しいって言ってもらって、そういうのを求めているんじゃないの?」
「……そうだ」
「この世界の人間がさ、一生懸命作ったとうもろこしにどんな反応するかわかる? 俺はわかるよ。――絶対に奪いにくるね! 流通したら最後、真似されて、粗悪品が市場に流れて、みんな安いからってそっちばかり買うと思うよ!」
「…………」
「この世界の魔族さんの扱いって知ってる? 言葉が喋れるモンスターなんだって! 笑えるよね? じゃあさ、神様でも人間じゃないフン・フナフプさんって、今は味方かもしれないけど、いずれどんな扱いになるんだろうね?」
決して、フン・フナフプを動揺させるために適当なことを言っているわけではない。
異世界人の中で数年生活した夏樹だから、断言できる。
魔族を倒し、人間がこの世界を支配することになれば、次はフン・フナフプはもちろん、ぜっくんたちも敵とされるだろう。
もちろん、この世界の人間が神や魔族に、新たな神々に勝てるとは思わない。
それでも、夏樹の予想通りのことが起きること間違いない。なぜなら、異世界人は奪うことしか知らないからだ。
「こしこし……いいじゃねえか、別にこの世界の人間に義理もクソもねえし。アマイモンとガープだって好きにしてるんだ。こしこしが好きにしたっていいだろ!」
フン・フナフプの背中を押したのはベヒモスだった。
「……由良夏樹……良いのか?」
「求人募集しているのは本当のことだから、そこだけは嘘つかないよ」
「家族も連れて行けるだろうか?」
「うーん。要相談かと思うけど、人手は欲しいんじゃない?」
「私も、できることなら、地球でとうもろこしを作りたい!」
夏樹は改めて、フン・フナフプに手を差し出した。
「フン・フナフプさんなら、美味しいとうもろこしができるよ! 時期になったら送ってね!」
「――お世話になります!」
「もちろん、俺もついていくぞ!」
――こうして、フン・フナフプとベヒモスは人間サイドから勇者一行に加わるのだった。