作品タイトル不明
99「オファーの時間じゃね?」①
折れた腕を気にすることなく、すぐに治したベヒモスは満足したように笑った。
「大地の勇者佐渡祐介、楽しかったぞ!」
返事はない。
ベヒモスが立っているのに対し、祐介は地面に大の字となって倒れている。
意識はあるようだが、力尽きて立ち上がることができていない。
そんな彼の肉体は、最強の獣と戦ったのかと思うほど、外傷がない。
魔力はからで、体力気力もないようだが、致命傷は負っていないのだ。
「もっと強くなったら、全力で戦ってやる! また遊ぼうな!」
祐介の口が小さく動いたが、声は出ることがなかった。
それでも、唇の動きで察したようで、ベヒモスが満面の笑みで頷く。
「いいぞ! 戦い以外でも遊んでやる! 今度、向島にも遊びに行くぞ!」
なにやら遊ぶ約束を取り付けたようだ。
ベヒモスの言葉を聞いた祐介は、かつてないほど満足したような顔をして、意識を手放した。
「……祐介くん、お疲れ」
祐介が気絶したと同時に、一登と千手の腕を掴んだ夏樹が音もなく現れる。
「思いっきりぶん殴られて、めちゃくちゃ遠くまで吹っ飛ばされちゃったよ。だけど、祐介くんが頑張ってくれたから、よし、かな? んで、ベヒモスさんはまだ元気そうだけど、俺と続きをやる?」
夏樹が、一登と千手の腕を離すと、ふたりは酔ったように口を抑え地面に座り込む。
「あ、ごめん?」
「……速すぎて、酔った」
「おえっ」
戻ってくるために急いだため、振り回された形になったふたりは、今にも吐き出しそうだった。
夏樹は手を合わせて謝罪すると、聖剣を手に取り構えた。
「第二ラウンドいっとく?」
「もういいぞ」
「……あれ?」
「もう俺は楽しんだから、もういいぞ! お疲れ!」
「……なんだろう。この構ってちゃん面倒くせーって思ってたのに、そっけなくされると寂しい――っ、これが殺意?」
「真面目にやれ、由良……おえっ」
「うっす!」
夏樹は肩を聖剣でとんとんしながら、ベヒモスとフン・フナフプに問う。
「いやさ、ぜっくんの愉快な仲間たちのベヒモスさんとフン・フナフプさんをこのまま返すわけにはいかないんだよなぁ」
「……そういえば、俺はぜっくんの仲間だったな。あいつは、前は遊んでくれたけど、異世界に来てから暗躍が楽しいって遊んでくれないし。フン・フナフプとアマイモン、ガープが遊んでくれるけど。うーん」
ベヒモスはぜっくんのために戦おうとは思っていないようだ。
この辺は高位魔族らしい自由だ。
もしくは、祐介と思いっきり喧嘩をしたことですっきりしていることで、気持ちに変化があった可能性もある。
「ベヒモスっち、私が代わろう」
「おう! 難しいことはわかんないから、任せるぜ!」
前に出たフン・フナフプに夏樹が身構える。
フン・フナフプはかなり強い。
戦うのなら、今出せる全力で当たる必要があるだろう。
「先ほども言ったが、私はとうもろこし栽培のために、この世界の土地が欲しい。ぜっくんには、この世界の土地を提供してもらう代わりに、仲間となった。それは変わらない」
「魔族さんの土地じゃダメなの?」
「魔族たちが住まう土地は悪くないが、人間たちの住まう土地の方が好みだ。手が入っていない場所がたくさんあるのでね」
「なるほど。なら、しゃーないか」
夏樹のうっすらとした記憶の中にあるこの世界の人間は、新たな土地を開拓しようという気持ちがない。
冒険者に依頼として出すことはあるが、大半の者が良い土地があれば奪おうとする。
同じ国の貴族たちでも、頻繁に土地の奪い合いがある。
ひとつの村でも、良い畑があれば力づくて奪ってしまうことだってある。
そんな人間だからこそ、手付かずの土地が多いのはわかる。
この世界の人間では、フン・フナフプの畑を奪おうとしてもまず無理だ。
「個人的な話をさせてもらうと、君たちのことは好ましく思っているので提案をしよう」
「……俺は絶対に人間側に味方しないからね」
「気持ちはわかる」
フン・フナフプは苦笑する。
彼から見ても、異世界人は酷いのだろう。
「ぜっくんの仲間に世界を行き来できる神がいる」
「へえ」
夏樹はこっそり、その神を殺すリストの上位に入れた。
「彼の力を借りて君たちを地球に帰そう」
「別世界に転移させられそうだからいーやー!」
「ならば、人間と魔族の戦いに介入しないでくれると助かる。君たちが手を出さないのなら、私も介入しないと約束しよう」
「いーやーでーすー!」
フン・フナフプのことは嫌いじゃないが、ぜっくんは嫌だ。
ぜっくんサイドには、杏もいる。
元義妹がどうなろうと知ったことではないが、悲しむ人がいるのも事実だ。
なので、ノータッチというわけにはいかない。
「……そうか、残念だ」
「待て待て待って。次は、こっちの番じゃね?」
「どういうことかな?」
夏樹はにこりと微笑む。
「うわっ、悪人顔!」
「聖剣さんっ、失礼だよ!?」
夏樹としては友好的に微笑んだつもりだったが、聖剣さんにはそうは見えなかったらしい。
気を取り直して咳払いをすると、夏樹はフン・フナフプに提案した。
「お母さんの知り合いが北海道で農家やってて、跡取りを探しているんだけど……フン・フナフプさん、よかったら紹介してあげようか?」
「――っ」
マヤ文明の神に大きな動揺が走った。