作品タイトル不明
間話「父とまもんまもんじゃね?」①
――青森。某所。
かつて魔界の覇権をめぐりサタンと戦い敗れた、魔族サマエルはかつてないほど緊張していた。
テーブルを前に、正座している。
喉がカラカラと乾き、できることなら、冷蔵からビールを取り出して一本飲み干したい衝動に駆られるが、今はそんなことは絶対にできない。
隣に座る七つの大罪の魔族マモンに至っては、同じく正座して借りてきた猫のように大人しい。
(あ、お腹痛い)
サマエルは、緊張でお腹が痛くなった。
その理由は、テーブルを挟んで向かい側に座る三人にあった。
ひとりは、真門亜子だ。
珍しく制服を着た、可愛らしい女子高生だ。
朗らかな少女は、マモンと清いお付き合いをしている人物でもあった。
そんな亜子の隣には、亜子に似た優しそうな小柄な女性と、巌のような男性が座っていた。
――亜子のご両親である。
(亜子ちゃんとマモンが交際を始めて、まだ時間は経ってないけど、こんな日が来るとは思っていた。ここが頑張りどころだぞ、マモン!)
亜子は、都会で高校生活を送っていたが、男女関係のいざこざからいじめられてしまった。
心優しい子にいじめは辛かったようで、祖母を頼って田舎でのんびりとした時間を過ごすことで、心を癒そうとしていたのだ。
実際、カウンセリングも受けていたようで、傷つきながらも前向きに歩もうとしている。
彼女にとって、マモンの存在も大きかっただろう。
悪人面のマモンがデレデレになる程、相性は良く、大事にしていた。
少々大事にしすぎであり、亜子を傷つけた者たちが何らかの事故にあっているのには目を瞑ろう。
いつか来ると覚悟していたご両親との対面が、こうも早く来るとは思わなかったが、真剣に交際しているからこそ、避けられない。
遅かれ早かれだ。
サマエルは、マモンの上司ではなく、幼馴染みとして最後まで見守ろうと決めていた。
「――マモンさんと、サマエルさんとおっしゃいましたね」
太く、力強い声が、マモンとサマエルの名を呼ぶ。
亜子の父は、厳しい顔をしているが、体格も良い。
身長は二メートル近くあり、横幅もしっかりしている。だが、脂肪などではなく、筋肉がついているのがスーツ越しにもはっきりわかった。
「私は、亜子の父、真門門司と申します」
「母の、撫子と申します」
「娘が大変お世話になっているようで、一度ご挨拶にと思い、急で申し訳ございませんが、お邪魔させていただきました」
亜子の母撫子は、女子高生の娘がいるとは思えないほど若く、可愛らしい女性だ。
どことなく亜子に似ている。
(ふ、不謹慎だけど、亜子ちゃんと同じくおっぱいでっけー!)
本当に不謹慎な感想を抱いたサマエルは、自らの胸部を見て、肩を落とす。
「亜子はあなたたちのおかげで、以前よりも明るくなりました。親として、これほど嬉しいことはありません。どうもありがとうございました」
撫子は門司と共に、深々と頭を下げた。
亜子もそれに続く。
マモンとサマエルは慌てて、同じようにお辞儀をした。
「こちらこそ、亜子さんにはお世話になっていまもんまもん」
「森田のおばあちゃんにも大変お世話になっていますし、亜子ちゃんも良き友人として、いえ、家族のように仲良くさせてもらっています」
森田のおばあちゃんは、亜子の祖母であり、サマエルが青森にきてから面倒を見てくれた近所の方のひとりだ。
「母もお二方にお世話になっているようで、本当にありがたく思っています」
より深く頭を下げた門司に、サマエルが顔を上げてくれと言う。
世話になっているのはサマエルたちのほうなので、礼を言われても困ってしまう。
「……改めまして、本日お邪魔しましたのは、亜子のことです」
マモンとサマエルが背筋を伸ばす。
ごくり、とマモンが唾を飲んだのがわかった。
「亜子には再び高校に通ってもらおうと思います。今の亜子ならば、大丈夫であると。しかし、亜子はおふたりと……特にマモンさんと離れたくないというのです。そこで、不躾ながらマモンさんのお気持ちをお尋ねしたく」