作品タイトル不明
97「大地の勇者と最強の獣じゃね?」①
「なにしてるん、あの子!?」
東雲は悲鳴をあげた。
「あかんで、止めな! なんで、あの子はこの魔力のプレッシャーの中でピンピンしとるんや!?」
祐介が大地の勇者であり、潜在的な力は夏樹に匹敵することは東雲は知っている。
東雲の目には、祐介の内なる力が「視え」るのだ。
しかし、その力は発展途上であり、夏樹に遥か及ばない。
東雲はおろか、魔眼を制御できたことで霊力をはじめ根本的な力が上がった千手よりも使える力は低い。
戦い慣れしていないこともそうだが、祐介はまだ自分の力をきちんと向き合っていない。トラウマを持っているゆえに、どうしても力をセーブしているのだ。
先ほど、異世界人を相手に戦ったが、それも無理していたように見える。同時に、自分を酷い目に遭わせた奴らへの復讐を兼ねていただろう。
その力は不安定で危うい。
夏樹の聖剣さんのような力を補佐してくれる相手もいない祐介が、最強の獣を前にちゃんと戦えるかどうか、東雲には予想ができない。
「な、なんだてめえは! ハンカチなんていらねえよ! 泣いてねえし!」
泣いていたことを隠すように、ベヒモスが拳を振るう。
彼女の拳には、大地を砕いた力が込められていた。
人間がまともに食らえば、上半身がひき肉になるだろう。
「ゆ、祐介はん!」
結界を張っているため動けない東雲が叫ぶ。
彼の脳裏には、上半身が吹き飛んだ凄惨な祐介の姿が浮かぶ。
――だが、東雲の予想は大きく外れることになる。
「ふふふっ、やんちゃなベヒモスさんだ」
「……え?」
東雲だけではない。
拳を放ったベヒモスさえも、傍観に徹していたフン・フナフプさえも、目を丸くしていた。
――祐介は、ベヒモスの拳を手のひらで受け止めていたのだ。
「……ありえへんやろ」
祐介の腕は、ベヒモスの一撃を受け止めたことで、砕けている。
袖はなくなり、腕の至る所から出血していた。
それでも、祐介はベヒモスの拳を受け止めたのだ。
「お手手すべすべですね。――ぽっ」
「……な、なんで?」
「なにか変なことでも?」
「人間が俺の一撃をまともに食らって平気なはずが」
「……腕、ぐっちゅぐちゅですけど?」
「ないないない! 腕だけで済むはずがねえんだよ! えー、なんかこわい! フン・フナフプだってぐしゃってなるのに! なんだ、こいつ!」
ベヒモスは腕を引こうとしたが、祐介は離さなかった。
彼のひしゃげた腕のどこに、そんな力が出るのか見ている誰もが理解できない。
そんな祐介をどう思ったのか、ベヒモスがもう片方の拳を放った。
轟音と衝撃波と共に祐介の左脇腹に、拳が刺さる。
「ぼえっ……い、いたくないー」
吐血しながら、祐介は踏ん張った。
奥歯を噛み締め、震える足にこれでもかと力を入れた。
絶対に倒れないという意思が、そこにあった。
「……お前……壊れないんだな」
「大地の勇者ですから!」
「――お前、壊れないな!」
「魔族を愛する紳士ですから!」
「壊れないなら――おもっきり遊ぼうぜ!」
ベヒモスは、殴っても壊れない者を見つけ、嬉しそうに、楽しそうに唇を釣り上げた。
そして、力任せに祐介を蹴り飛ばす。
地面を跳ねた祐介だったが、地面に指を立て勢いを殺すと、すぐに体勢を整えた。
ベヒモスの笑みが深まる。
犬歯を剥き出しにして、本当に嬉しそうに笑った。
「はぁはぁ……おじさん、ベヒモスちゃんとたっぷり遊びたいなぁ」
口と鼻だけではなく、目や耳からも血を流した祐介は、恍惚とした顔をして笑い返した。