作品タイトル不明
96「最強の獣さんだって寂しいんじゃね?」③
「うわぁああああああああああああああああああああああん!」
鳴き声の混ざった叫びと共に、魔力の衝撃波が放たれる。
夏樹は聖剣を振るい、衝撃波を斬った。
だが、彼女の叫びは止まらない。
波のように、繰り返し衝撃波が飛んでくる。
思い切り殴られたような衝撃が、捌ききれず全身にぶつかる。
鳴き声ひとつで、大ダメージだ。
「くっ、厄介な! なんか後味悪そうだけど、――斬る!」
ベヒモスは外見こそ大人の女性であり、生きてきた時間も夏樹など比べ物にならないほど長い。
だが、接してみると、子供を相手にしている印象を持ってしまう。
(……さすがに勇者様も子供を斬ることは……あ、できるわ)
かつて異世界で勇者をしていたころ、老若男女問わず斬り殺した夏樹にとって、子供を斬ることは容易い。
だが、異世界人のように人として認識したくない者たちとは、ベヒモスは違う。
罪悪感も後悔も残りそうだが、斬れないことはない。
――しかし、そんな夏樹のわずかな一瞬にベヒモスが動いた。
「お前たちなんて嫌いだぁあああああああああああああああああ!」
どんっ、と地面を蹴ったベヒモスが夏樹の眼前にいた。
「げ」
彼女が蹴った地面は抉れ、後方に瓦礫を飛ばしている。
どれだけの力で移動したのか、想像したくない。
「うわぁあああああああああああああああああん!」
涙と鼻水を流すベヒモスが拳を振り抜く。
その一撃は、あまりにも早く、あまりにも力強い。
「や、べ」
先ほど軽く戦ったフン・フナフプを凌ぐ速さだった。
だが、対応できない速度ではない。
夏樹は聖剣を盾がわりにして、防御の体勢を取る。
しかし、ベヒモスは聖剣ごと夏樹の小柄な身体を殴り飛ばした。
夏樹が後方に吹っ飛んだ。
一登と千手が夏樹を受け止めようとしたが、彼らを巻き込んで地面を跳ねていく。
ベヒモスの拳は、夏樹をうまく捉えられなかったようで、勢い余って拳が地面を殴った。
――次の瞬間、轟音と共に地面に大きなクレーターができた。
衝撃で生まれた暴風が土煙を立てて東雲たちを襲う。
「――あかんわ。さすが、ベヒモスやね。正直、勝てる気がせえへん。茨木童子を相手にしてた方がまだマシや」
何十枚の符を浮かべて障壁を作った東雲が、冷や汗を流している。
普段から飄々している彼が、あからさまに動揺を見せていた。
東雲の符に守られているのは、円、征四郎、義政だ。
「兄貴! 祐介くんがおらへん!」
「……あら?」
東雲が障壁内を見渡すと、円の言葉通り祐介がいない。
「――祐介さんはあそこです」
「いつの間に!?」
義政が結界の外を指差すと、征四郎が唖然とした。
誰もが防御に徹している中、唯一動いていた男がいたのだ。
――大地の勇者佐渡祐介だ。
彼は、クレーターの中心にいるベヒモスの前に立ち、懐からハンカチを取り出し、差し出した。
「涙をお拭き、マドモワゼル。あなたに涙は似合わない」