作品タイトル不明
95「最強の獣さんだって寂しいんじゃね?」②
だばー、っと涙を流して、わんわん泣き始めるベヒモスに、夏樹はびっくりした。
「えー。泣いちゃうのー?」
まさか長い時間を生きる魔族が、中学生と少々口論しただけで大泣きするとは思いもしなかったのだ。
「なーかした! なーかした! せーんせいに言ってやろー!」
祐介が、小学生に戻ったように夏樹を糾弾し、
「男子ってサイテーやん! そうやって、すぐ女の子をいじめるんやから!」
東雲が、クラスにひとりはいそうな委員長タイプの女子みたいなことを言い出した。
「ちょっと気になるからって、すぐ意地悪するのダサすぎー! だから男子って、もう!」
征四郎までが、女の子口調で夏樹を責める。
「由良ぁ! 放課後職員室に来い!」
最後に千手が、先生みたいなことを言い出す。
「……僕も苦い思い出があります。些細なことで喧嘩をして、泣かしてしまった吉子さん。謝れないまま、ご両親の都合で転園してしまいましたが……元気にしているでしょうか」
なにか琴線に触れたのか、義政が切ない思い出を口にした。
彼の目は、夜空の先の、どこか遠い景色を見ているようだ。
「夏樹くん、さすがに泣かせるのはちょっと」
「あかんで、なっちゃん。ちゃんと謝らへんと」
一登と円も、夏樹が悪いと思っているようだ。
「……これは戦いなのか、それとも、交流なのか?」
グランドルたちだけが、このノリについていけず困惑していた。
「ぐずっ、うっ、うぇっ、うぅ、おえっ」
「落ち着くんだ、ベヒモスっち。泣きすぎて、えずいているではないか」
涙を手で拭うベヒモスの背を、フン・フナフプが優しく撫でる。
その姿は、まるで兄のようだった。
「えーっと、なんていうか……ベヒモスさん、ごめんね?」
「……ぐすっ、俺だって、俺だってリヴァイアサンに構ってほしいのに! ちっちゃいころは、よく学校で遊んだのに……十九世紀くらいからあまり遊んでくれなくなったし!」
「……まさかの同級生!? 魔界ってどうなってるの!? マモンとサマエルさんも幼稚園時代に出会ったっていうし、ビッグネームのお名前って実は名字でパパとママいるの!? なっちゃんわかんない!」
正直、どうすればいいのかわからない。
幼馴染みに構ってもらえず、大泣きしている格好良い系お姉さんの対応は、中学生の夏樹には難易度が高い。
「と、とりあえず、ベヒモスさんはリヴァ子さんが構ってくれないから、異世界で大暴れしようってことでいいかな?」
「ぐすっ、うっ、もういい! 俺のことバカにしやがって、もういい! みんな――ぶっ殺してやる!」
どんっ、と音を立ててベヒモスから魔力が解放された。
今までとは比較できない、強力な魔力だ。
魔力を解放しただけにも関わらず、グランドル、ゴールン、ガイオンが吹き飛ばされた。
一登たちも、それぞれ踏ん張ってなんとかなっているが、限界があるだろう。
「勇者由良夏樹よ――教えておこう」
ベヒモスの魔力がどんどん上がっていく中、唯一涼しい顔をして平然と立っているフン・フナフプが、告げた。
「先ほどベヒモスっちには、制限があるといったが、これで本来の力が惜しみなく解放されるだろう。ベヒモスっちは、理由なく大暴れするときが――一番強い」
「めんどくせぇええええええええええええええ!」