作品タイトル不明
92「とうもろこしは齧りつきたくね?」①
「いくぞ、パチモスマン!」
「ベヒモス様だ!」
地面を蹴った夏樹は、迫り来るベヒモスの鋭い爪を紙一重で避けると、彼女の膝を踏み出しにして縦に一回転する。
回転に任せてベヒモスの顎を蹴り上げると、彼女の身体が浮いた。
だが、戦い慣れしているベヒモスが、器用に宙で体勢を整えると、地面に両手両足で着地する。
その姿はまさに獣だった。
「ふむふむ」
夏樹はベヒモスを視界の端に入れながら、自らの手を握って確認する。
師匠によって、器を拡張してもらったおかげか、身体が軽い。
今までの五割と、現在の五割では、まるで力が違う。
(細い蛇口で力を絞っていたけど、今は蛇口が大きくて力の出もよいって感じかな? あと、質も良くなった気がする。身体への通りもいいね!)
「がぁっ!」
獣のように地面をかけるベヒモスが迫る。
そのスピードは今までとは比ではないほど早い。
が、夏樹の脅威にはならない。
攻撃をしかけるベヒモスよりも早く、彼女に再び肉薄すると、顔面を掴んで地面に後頭部を叩きつける。
大地が蜘蛛の巣状にひび割れた。
「ぐ、あ」
「あんたもツイてないね。師匠と再会する前だったら、苦戦していたよ」
「て、め」
「ありがとうございます。師匠ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
夏樹は夜空に向かい、師匠への感謝を叫んだ。
「さてさて、どうせ新たな神々とわけわかんない神話作ろうぜ的なパーティーピーポーな仲間たちなんだろ。俺って、そういう無駄にノリのいいやつって嫌いなんだよねぇ。というわけで、さようならー!」
一方的に言いたいことを言った夏樹は、ベヒモスの腹に聖剣を突き立てた。
「て、め……」
「身体の内側に雷を流して、焼いてや――」
「夏樹!」
聖剣に魔力を込めようとした夏樹に、聖剣さんが叫んだ。
刹那、視界の中に、足の裏が入った。
「……早っ」
相当な速さの蹴りを喰らったと理解したのは、防御した腕ごと蹴り飛ばされ吹っ飛んでからだ。
しかし、すぐに聖剣を地面に突き立て、ことなきを得る。
「……腕が折れちゃったよ」
すぐにヒールで治したが、ただの蹴りだというのにかなりの力が込められていた。
「少年よ、ベヒモスっちは力に制限があるため、ここからは私が相手になろう」
夏樹を攻撃したのは、腰蓑と髪飾りを身につけた、日に焼けた肌を持つ三十代の男性だ。
彫りの深く、濃い目な端正な容姿をしている。
ベヒモスもかなり強いが、この男性はさらに強いと夏樹の本能が警告音を鳴らしている。
「えっと、確かもろこしの神様だったよね?」
「フン・フナフプという。正確にはとうもろこしの神ではないが、今はとうもろこしの神として活動している」
「それで、そのもろこしの神様がなーんで新たな神々の味方になって異世界にいるのかなぁ?」
夏樹の知識の中に、フン・フナフプという神はいない。
知らない神を相手にどう戦えばいいのかわからず、様子見を兼ねて会話を試みる。
神を相手に、不遜であると思われるだろうが、夏樹が最も警戒しているのはアマイモンだ。それまでは、力を温存しておきたかった。
「会話を望むなら、応じよう」
フン・フナフプは、夏樹の考えを見抜きながら、あえて会話に付き合ってくれるようだ。
「あんたの目的は?」
「――この世界でとうもろこしを思いっきり作ることだ!」
「…………なんて?」