作品タイトル不明
91「急にバトルなんじゃね?」①
由良夏樹は、我慢強い性格だと自負している。
その証拠に、こんな異世界で酷い扱いを受けながら、まだ世界を滅ぼしていないのだ。
それでも、限界はある。
「……てめえら、延々ともすもすこしこし言いやがって。それしか喋られないかと思ったら、普通に喋れるじゃねえか! あと、てめえ! なにがベヒモスだ! モスマンじゃねえのかよ!」
あれだけモスモスいいながら、モスマンではなかったというのは、腹立たしい。
「俺はUMAじゃねえよ! さっきから、なんでモスマンが出てくるのかわかんねえから!」
ベヒモスが波打つ黒髪を振り乱して文句を言うも、文句を言いたいのはこちらのほうだ。
「紛らわしいんだよ! ほら、みろ! しののんたちが、しょんぼりしているじゃねえか! サンタさんがいないって言われた子供みたいな目をしてるぞ!」
「そんなこと知るか! あと、サンタはいるだろ!」
「サンタさんいるの!?」
怒りが霧散してしまう。
モスマンと期待した女性がベヒモスだったという事実に、あからさまに落胆していた東雲たちも、宝箱を見つけた少年のように再び瞳を輝かせた。
「いるに決まってんだろ! 神々も魔族もいて、なんでサンタだけいねえんだよ! その発想がねえわ!」
「……俺のところにサンタさんが来たことないんだけど」
「そりゃ、お前が悪い子だからだよ!」
「ブラックサンタさんも来てないんだけど!?」
「ありゃ、確かドイツ方面の話だろ? 日本なら、なまはげじゃねえの?」
「なまはげさんだって来たことねえよ!」
「知らねえよ! ていうか、そうじゃねえだろ! お前な、最強の獣であるベヒモス様が目の前にいるんだぞ! もっと他にないのか! あるだろ!」
「ねえよ!」
夏樹が地面を蹴り、ベヒモスに肉薄する。
聖剣さんを振おうとするが、ベヒモスの動きも負けていない。
大抵の相手が、攻撃をすると防御の姿勢を取る。取らずとも、自らが傷つくことを気にして少なからず動きが制限される。
しかし、ベヒモスは違った。
斬ってみろ、とばかりに防御など考えず、前に出る。
そのため、夏樹は聖剣を振り切れない。
「なんだぁ? お前、強いけど基礎がなってねえな!」
「実践派なんで!」
「ならしょうがねえな!」
「だよね!」
剣を振るえなければ、振るわなければいい。
戦いようはいくらでもある。
「おらぁ!」
「しねぇ!」
ベヒモスの拳が夏樹の顔面を捉えた。
同時に、彼女の腕を聖剣から放たれた魔力の斬撃によって肩口から斬り飛ばす。
「おっと」
夏樹が腹を蹴り、距離を取ると、ベヒモスは器用に腕を掴みつなげる。
「ったく、革ジャンの袖無くなっちまったじゃねえか」
「似合ってるからいいんじゃない? バランスよく、もう片方も斬り落としてやるよ」
「いいなぁ! お前!」
夏樹は鼻血を袖で拭う。
(ベヒモスって名乗るだけあって、強っ。強いっていうか、戦い慣れしすぎ! 絶対に俺よりも踏んだ場数が違うよねぇ)
「はぁ。仕方がないか」
「お、降参か?」
「そんなわけないでしょうが! 身体強化だけじゃ、ちょっと難しいなーって思ったから、それなりに力を使って戦おうかなって思っただけだよ」
「おいおい、俺相手に出し惜しみしたら、死ぬぜ?」
「そう思ったから――五割で戦ってやるよ」
魔力を高め、聖剣さんから青い雷が迸る。
「生意気なガキだ。だけど、嫌いじゃねえぜ!」
ベヒモスは楽しそうに、舌舐めずりをすると、獣のごとく夏樹に飛びかかった。