作品タイトル不明
間話「愛の女神と愛の女神じゃね?」①
新たな神々が一柱。
愛の女神こと愛ちゃんの朝は遅い。
「ん、あ……もう朝?」
ベッドの上で目を覚ました愛ちゃんが、枕元に置かれる携帯で時間を確認すると、すでに正午を回っていた。
「げ。もうお昼じゃん。あーあー、スーパーのセールに間に合わなかった。今日は白菜が安かったから漬物作ろうと思っていたのに。二度寝しようっかな」
新たな神々である愛ちゃんだが、絶望の神ぜっくんと違い、積極的に人間にちょっかいをかけようとは思っていない。
ときどき、思うままに行動することもあるが、今はそんな気分ではなかった。
もともと愛の女神として生まれたはもちろん、自我を得たのも最近だ。
愛ちゃんの本質は、愛を与えるのではなく、愛を動かすわけでもなく、愛を一身に注ぐ純愛だ。
戦えばそれなりに強く、新たな神々の中でも上位の力を持っている。
ただし、愛ちゃんはその力を使う気がない。
新たな神話を作る勢力に加担するつもりはなく、神話などにも興味はない。
そんな愛ちゃんを快く思わない新たな神々は一定数いて、殺そうと襲ってくる神もいる。
ぜっくんのように、頻繁にスカウトに来て振られても気にしないで笑う神のほうが稀だ。
神話を持たない新たな神々は、大なり小なりプライドが高い。
愛ちゃんもいつまでものらりくらいりとかわせないだろう。
だからといって、古き神々と仲良くやるつもりもない。
「……喉乾いたし、起きようっと」
寝室からリビングに通り過ぎ、キッチンの冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出す。
開栓し、一口飲むと、冷たさが喉から胃に流れ、眠気が去っていく。
「――でさ、なんであんたが我が物顔で、人の家のリビングでワイドショー見てんのよ」
愛ちゃんは、ソファーに寝転がってテレビを見ている少女にペットボトルを投げた。
少女は見向きもせず、ペットボトルをキャッチすると、中身を全て飲み干す。
「ごちそうさま。あんたにしては気が効くじゃない」
「……水をごちそうしてあげたわけじゃないんだけど」
「勝手に冷蔵庫を開けなかったのだから、水くらいいいじゃない。この家、ウォーターサーバーもないの?」
「一人暮らしなら、ペットボトルで十分よ。って、そんなことどうでもいいのよ。なんで、あんたが私の家でのんびりしているのよ。――愛の女神」
「ちょっと聞きたいことがあるのよ。――愛の女神」
愛の女神は愛ちゃんだけではない。
新たな神々は、現代の人々の「想い」から生まれた神だ。
愛を司る神は、愛ちゃん以外にもいる。
その一柱が、リビングでくつろぐ少女だ。
「私のことは愛ちゃんって呼びなさいよ」
「図々しい女ね、自分のことを愛と呼ばせるなんて。いいわ、なら、私のことは愛美と呼びなさいな」
「嫌ですー」
「…………いい度胸ね」
愛美と名乗った愛の女神は、十七歳ほどの少女だ。
四肢はすらりとして細く、長い足には黒いタイツが履かれている。
髪は黒く、身の丈と同じほどの長さだ。
細身ながら、胸部だけはほどよく主張している。
幼さを残す愛ちゃんに比べて、愛美は少女ながら大人びている。
「ていうか、なんでセーラー服着てるのよ?」
「芋ジャーのあんたよりはマシよ」
冷蔵庫から新しいペットボトルを取り出す愛ちゃんと、ソファーから起き上がる愛美が睨み合う。
しばらく、無言が続くが、不意に愛美が口を開いた。
「あんたに聞きたいことがあって、わざわざここまで来たのよ」
「なによ? くだらないことだったら、引っ叩くわよ」
「……あんたね、もっと友好的にできないの?」
「するべき相手にはしているわよ」
「あ、そ。まあいいわ。それよりも、面白そうな人間がいるようね」
「……なんですって?」
笑みを浮かべる愛美を愛ちゃんが睨む。
「――由良夏樹だっけ? その子について、教えてくれる?」