軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87「俺はツッコミ担当じゃなくね?」①

「もすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもす」

「こしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこし」

聖剣を構えた夏樹は、頭上を見上げた。

強い神力と魔力は、大きすぎてどこにいるのか最初こそわからなかったが、上空からゆっくり降りてきているのだと理解した。

「せ、聖剣さん! 空から、なんかお姉さんとおっさんが腕を組んでくるくる回りながらこっちにくるんですけど!?」

「知らないわよ!」

「なんかこわい!」

とりあえず、攻撃してみようかなと考えた夏樹の肩を千手が掴んだ。

「待て、由良」

「千手さん、なんで止めるの!? 先制攻撃しないとやべーって! なんかやべーって!」

「もしかしたら、スカイダイビングを楽しんでいるカップルかもしれないだろう!」

「なんで!? 異世界でスカイダイビングする人いるの!? そりゃ、スカイダイビングの動画に出てくる感じで、腕組んでくるくるしているけど、あいつらパラシュートつけてないよ!?」

「……スタッフが忘れたんだ」

「大事件じゃん! 訴訟して余裕で勝てるよ!?」

自分ならいざ知らず、急にボケだした千手に、夏樹は動揺する。

千手もたまに変な言動をするが、よりによってこのタイミングでか、とどうすべきか悩む。

「夏樹くん、僕に任せてほしい」

「祐介くんまでボケるの!?」

「そんなことはないよ。きっと、ふたりは、復讐に取り憑かれたレオニー・トットが残したなんとも言えない空気を霧散してくれる存在」

「もうとっくに霧散したよ! なにも残ってねえよ!」

祐介までボケ始めてしまい、夏樹は困惑する。

「もすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもす」

「こしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこし」

その間にも、上空からふたりは近づいてくる。

「よく見たら、女性のほうは皮ジャンだけど、男性のほうは腰蓑巻いてるよ。――腰蓑!? なんで!? どこの部族の方!?」

頭上でくるくる回る男女の、女性は革ジャンとジーンズを身につけた黒髪を伸ばしている。男性のほうは、腰蓑を履き、頭に植物や羽を飾っていた。

絶対に異世界人ではない。

「もすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもすもす」

「こしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこしこし」

「ひいっ、もうすぐそこまでくるよぉ!」

敵意もなにもなく、ただ強い力を持つ者が「もすもす」「こしこし」だけ言いながら降ってくる光景は特殊なホラーシーンのようでとにかく怖い。

「夏樹くん、自分は思うんやけど」

「常識があるしののん! まともな意見をプリーズ!」

「――おそらくやけど、片方はモスマンやないかって自分は思うんやけど」

「――Mothman!?」

東雲は顎に手を当てて真面目な顔をしている。

「モスマンって、あのモスマン!? UMAの蛾人間とかいうあのモスマン!?」

モスマンは、体長二メートルほどで、翼を持つUMAだ。

翼を持ちながら、翼を使うことなく車よりも早く飛ぶという逸話がある。

目撃者の大半が、一瞬しか見ていないため、その姿は曖昧だ。

それでも、赤い目がギラギラと光っていることや、目と目の間隔が大きく開いているという証言だけは、概ね一致している。

その正体は、鳥であるという説から、宇宙人のペット説まである。

もちろん、UMAであるゆえ、現在もその正体はわかっていない。

「そうや。まさか、おるとは思わんかった」

東雲は瞳をキラキラと輝かせている。

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、ここは異世界だからね! アメリカ合衆国のウェストバージニア州じゃねーよ!? ちょっと、円ちゃん!? このお兄ちゃんをちょっとどこかに連れて行ってくれますぅ!?」

「ごめんね、なっちゃん。兄貴は子供んころからUMAが好きやねん」

「じゃあ、ある意味すごいUMAの茨木童子と結婚してやればよかったじゃん!」

「もすもす、鳴いとるやろ。あれはモスマンの鳴き声で間違いないと思うんよ」

「聞けよ! つーか、モスマンがもすもすって安直に鳴くかよ! 確か、コウモリに似た感じできぃきぃ鳴くんじゃなかったっけ!?」

珍しく、夏樹が息を切らしてツッコミ側となる珍事件が異世界に起きた。