作品タイトル不明
86「この人誰なんじゃね?」③
夏樹はレオニーを生かして逃すつもりはない。
捕虜にするつもりもない。
殺して、終わりだと決めていた。
しかし、魔族的にはどうなんだろう、かとグランドルに尋ねようとした。
「ねえ、グランドルさ――」
「うわぁあああああああああああああああああああああ!」
夏樹がグランドルに声をかけたタイミングで、レオニーは走り出した。
隙ができたと勘違いしたようだが、彼がどれだけ動こうと、間合いの中だ。
「せめて、佐渡祐介だけでもぉおおおおおおおおおおお!」
「させるわけないじゃん」
レオニーの目的は、祐介だった。彼を殺すためなら、王女を利用し、兵も犠牲にした。
だが、祐介に傷一つ負わすことができない。
このままでは終われないのだろう。
――もっとも、夏樹にとって、そんなことは知ったことではない。
聖剣を小さく振ると、レオニーは両足が両断されて転がった。
「ぎゃぁああああああああああああああああああああああ!」
痛みに絶叫をあげるレオニーだが、振り返ることはせず、自らの足の確認もしなかった。
「佐渡祐介けぇえええええええええええええええええええ!」
レオニーの伸ばした腕に魔力が集まる。
魔法が発動しようとしているのだろう。
明確な殺意と憎悪を向けられた裕介は、身体を硬直させていた。
「――そこまで誰かを思う気持ちがあるのなら……いや、なんでもない」
夏樹が聖剣さんを振るうと、レオニーの両腕が飛んだ。
地面を滑るレオニーの身体が四分割される。
祐介とレオニーの間に立った夏樹が、聖剣さんを掲げる。
「さようなら、レオニー・トット。あんたの名前は覚えておくよ」
そして、聖剣さんを振り下ろす。
レオニーの身体は、聖剣さんから放たれた斬撃と雷によって焼き切られ、消し飛んだ。
彼の両腕と両足も共に、消し飛ばす。
「……大丈夫、祐介くん?」
レオニーに祐介をどうこうできたとは思わないが、肉体が無理でも心は傷つける方法はたくさんある。
「う、うん。……ごめん、夏樹くん。その、とどめを刺させちゃって」
「別にいいよ。一応、言っておくけど、気にすることないからね。レオニー・トットはさも自分が被害者のような顔をしていたけど、部下をはじめたくさんの人間を犠牲にした加害者だからさ。そもそも、祐介くんがあいつの婚約者を殺したわけじゃないし。というか、散々魔族さんを殺してきたくせに……なんで、殺される側の気持ちがわからないのかなって思うよ」
夏樹の、嘘偽りのない本心だった。
婚約者が殺されれば、さぞ憎むだろう。怒るだろう。苦しむだろう。
だが、なぜ、魔族も同じだとわからないのか、と理解に苦しむ。
魔族にも友がいて、家族がいる。愛する者だっているのだ。
人間に愛する者を奪われて、自分のように復讐に身を焦がしている者がいるのだと、なぜわからないのか。
「ったく、異世界人はどいつもこいつも自分のことばかりだ。あー、滅ぼしてぇ」
夏樹は人間に、期待などしていない。
今回のことがきっかけに、人間と魔族が手を取り合ってなんて展開なんて絶対にないこともわかっている。
王女と宮廷魔法使いの死をいずれ知った人間たちは、魔族を悪者にしてさらにせめてくるだろう。
その時、また被害が出るなど考えていない。
どうせ命令する者は、戦わないのだから。
「さてと、気分悪い戦いだったけど、帰って休もうよ」
夏樹がみんなに振り返り、そう言ったときだった。
「もすもすもすもすもすもすもすもすもすもす」
「こしこしこしこしこしこしこしこしこしこし」
聞いたことのない、声が響いた。
「――っ、誰だ! 無駄に個性を主張しているのは!?」
強い神力と魔力を感じ取った夏樹は、聖剣さんを構えた。