作品タイトル不明
74「聖剣さんと聖剣さんじゃね?」③
聖剣さんは火輪の剣に飛びかかった。
剣と剣とバトルが始まると思いきや、まさかの取っ組み合いだった。
「ちょ、なにをなさ――そ、その気配、まさか!?」
「ようやく思い出したようね! クソ聖剣!」
「なにを! あなたこそ、人間を操り殺戮を繰り広げた呪いの剣の分際で!」
「誰が呪いの剣よ!」
「ならば、言い方を変えますわ! 邪剣ですわ! 邪剣!」
「……やっぱりもう一度へし折ってやるわ!」
「わたくしが、かつてのか弱い美少女だと思ったら大間違いですわ! 素敵な伴侶を得てパワーアップしているのですから! へし折るのは、こちらの台詞ですわ!」
火輪の剣が、聖剣さんの桃色のツインテールを思い切り引っ張った。
すると、聖剣さんが負けじと、火輪の剣の縦ロールを引っこ抜く勢いで掴んで引っ張る。
「ぐぎぎぎぎぎ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
顔を真っ赤にした両者は、髪の引っ張り合いから次の手を打つ。
「しゃぁ!」
「おりゃぁ!」
扇子を突き出した火輪の剣と、指を突き出した聖剣さん。
鋭く放たれた扇子は聖剣さんの額に直撃する。だが、聖剣さんは衝撃など知ったことではないと、指を火輪の剣に届ける。
「だりゃぁああああああああああああああああああ!」
「ふんが!?」
聖剣さんの細い指は、火輪の剣の形のよい鼻へ突き刺さった。
額から血を流した聖剣さんは、邪悪な笑みを浮かべて、そのまま火輪の剣を持ち上げる。
――俗に言う、鼻フックだった。
「ふがががががが!?」
鼻の穴に指を突っ込まれて持ち上げられた火輪の剣は、扇子で聖剣さんの腕を何度も殴りつけるが、解放されることはない。
にたり、と聖剣さんが笑った。
「あらあら、素敵な顔じゃない。ブサイクだった顔がまあまあ見られる顔になったようねぇ」
「ふががががががが」
「なにを言っているのかわかんなーい! そうだ! せっかくだから、みんなにその素敵なお顔を見てもらいましょう!」
「ふが!?」
火輪の剣の抵抗など知ったことではないと、聖剣さんは嗜虐的な笑みを浮かべる。
幸いなことに、火輪の剣のあられもない顔は、一登に見えていない。
上手く喋れない火輪の剣が、涙を浮かべて、聖剣さんの腕を叩いている。
攻撃や抵抗ではなく「やめて」と訴えているのがわかった。
展開についていけず、傍観していた夏樹だったが、さすがに火輪の剣が可哀想になり、待ったをかけた。
「ちょちょちょ、邪剣さん」
「――ぶっ飛ばすぞ」
「ごめんなさい!」
ちょっとしたミスで聖剣さんを邪剣さんと言ってしまい、殺意の籠った視線を向けられてしまい、夏樹は諦めた。
残念だが、夏樹には火輪の剣を助けることはできない。
勇者であっても、助けられないものは助けられないのだ。
「俺は、無力だ」
「ふがふがふがふがふがふが!」
諦めんなよ、と火輪の剣が叫んでいる気がしたが、夏樹はつらそうに目を背けることしかできない。
「はーい、じゃあご対面よー!」
容赦のない聖剣さんによって、火輪の剣は鼻フックされた顔を一登たちに晒されてしまった。
「ふがぁあああああああああああああああああああああ!?」
大絶叫する火輪の剣。
夏樹たちは、ごくり、と唾を飲んで一登の反応を伺った。
「聖剣さん、駄目だよ。女の子の顔に酷いことをしたら」
一登はいつもと変わらず微笑んでいた。
「火輪ちゃんはいつでも可愛いよ」
彼の目にはどんな世界が見えているのだろうか。
火輪の剣の鼻フック顔を直視して、これだ。
「一登の背中に後光が見える! さすが一登! 懐が駿河湾!」
夏樹には、一登から後光が差し、まるで太陽に見えた。