作品タイトル不明
72「聖剣さんと聖剣さんじゃね?」①
夏樹が疑問符を浮かべると、一登が少し照れながら金髪縦ロールお嬢様を紹介してくれた。
「あのね、夏樹くん。彼女は、俺と契約してくれた聖剣火輪の剣さんだよ」
「おーほっほっほっほっほ! ごきげんよう! ご紹介に預かりました、聖剣であり、太陽の剣と名高い火輪の剣と申しますわぁ! わたくしの唯一絶対の伴侶である三原一登様の愛剣ですわ!」
扇子を口元に当てて高笑いする少女。
いろいろ言いたいことも考えたいこともあるが、とりあえず素直な感想を夏樹は口にした。
「……濃いなぁ」
夏樹も異世界に数年いたが、金髪縦ロールのお嬢様が「おーほっほっほっほっほ」と高笑いする光景を見るのは、初めてだ。
つい手を合わせて拝んでしまった。
「……なぜ拝まれているのかわかりませんが、わたくしを崇め祀ることはいいことですわね。ですが、もう少しフランクでもいいのですよ。わたくしの伴侶の兄のような方とお聞きしていますわ。ならば、わたくしにとっても兄のような存在ですもの」
「うっす。ありがとうございます!」
「いいのですよ! おーっほっほっほっほっほ!」
火輪の剣の高笑いが、中庭に響く。
なかなかの声量をお持ちだった。
「……いや、おーっほっほっほ、じゃねえから」
疲れた声を出したのは、一登たちを宝物庫に案内したダークエルフのソーニャだった。
「あ、ソーニャさん、お疲れ様です」
「あー、まじでお疲れだよ。一登のやつ、魔族が保管している中で一番やべー剣を選びやがったんだぞ」
「そんなにやばいの!?」
「やばいよ! 歴代の魔王が使えなかった剣だからな! 一登も一時は魅入られてやべえって思ったんだが」
「だが?」
「なんか知らんけど、火輪の剣のほうが一登に魅入られるというわけわかんない状況になってわけわかんない!」
「まあ、そこはしょうがないんじゃないかな。一登だもん」
「どういうこと!?」
一登は、一癖ある者に好かれやすい。
中学校での彼の友人も癖のある人物が多いのだ。
そんな彼が一癖どころか、二癖ありそうな火輪の剣に好かれても不思議ではない。
「いやぁ、羨ましいっすねぇ!」
「あ、銀子さん」
「俺様もいるんじゃぞ!」
「小梅ちゃんも。みんなでお酒飲んでるんじゃないの?」
「グランドルは、酔い潰したんじゃ!」
「グランドルさぁあああああああああああああん!?」
夏樹がグランドルに視線を向けると、レジャーシートの上でいびきをかくグランドルの姿があった。
酔い潰したというよりも、気持ち良くなって寝ちゃった感じのようで、ほっとする。
「お酒が足りなくなっちゃったんで、小梅さんの美脚パワーで夏樹くんから新たなお酒をもらおうと近づいてみると、なんすか一登くん! 聖剣を手に入れるなんてずるいっす!」
「そういえば、銀子さんも宝物庫に行きたがってたね。あと、小梅ちゃんの美脚を引き換えにしても、今日はお酒もうだめだよ!」
小梅の美脚パワーが気にならないわけではないが、昨日、散々酒盛りをしたのだ。今日は我慢させないと、買ってきたお酒がすべてなくなってしまう。
そうなったら、飲兵衛たちがどのような行動をとるのか想像するに容易かった。
「宝物庫は今度お邪魔するとして! 一登くん!」
「は、はい!」
「君の聖剣さんに、聖剣花子の名前を使ってもいいっすよ?」
「…………いえ、いいです」
「遠慮しなくてもいいっすよ」
「いえ、遠慮じゃないです。普通にいいです」
「え?」
「え?」
銀子の提案を普通に拒否した一登。
両者は、お互いに信じられないという顔をしていた。
「おどれのネーミングセンスは安直すぎじゃろ! 魔剣花子と被るじゃろうて!」
「魔剣花子と聖剣花子じゃ全然違うっすよ! なに言ってるっすか、小梅さん!」
「おどれが何言っとるんじゃ!?」
(聖剣花子って名前が安直とかダサいとかの前に、そもそも火輪の剣って名前があるんじゃ)
夏樹は口まで、出かけた言葉を飲み込む。
思えば、魔剣太郎も本来の名前があったはずだ。
夏樹はその名を知らないが、魔剣太郎が銀子に力を貸しているのなら、名前も納得しているのだろうと思う。
だが、正直、火輪の剣と聖剣花子なら、前者を選びたい。
「おーほっほっほっほっほっほ!」
「……その前に、いつまでこの人は高笑いしているんだろうか」
夏樹か首を傾げたとき、背後から聖剣さんが現れた。
「――久しぶりね、太陽の剣」
「え? どちら様ですの?」
「…………」
知り合いみたいな雰囲気で声をかけた聖剣さんに対して、火輪の剣は心当たりがないようだ。
「…………」
硬直した聖剣さん。
夏樹は叫んだ。
「とてもきまずい!」