作品タイトル不明
71「なんかひとり増えてね?」
夏樹たちは、祐介が青少年保護育成条例に引っかからなかったことを祝して、乾杯することにした。
夏樹としては、「え? また飲むの?」と驚いたが、地球の飲兵衛たちが止まるわけもなく、芋焼酎の一升瓶を二本取り出し、「これ以上は駄目だからね」と釘を指す。
オーガ族のグランドルと息子のゴールン、ガイオンも異世界の酒に興味津々だったので、夏樹もうるさいことは言わないことにした。
「それでは……大地の勇者沢渡祐介が本物じゃったことと、青少年保護育成条例に引っかからんかったことを祝して乾杯じゃぁあああああああああああああああ!」
「いえぇえええええええええええええええええええい!」
小梅の音頭で、酒が飲める者が乾杯する。
当の祐介は、十八歳なのでまだお酒が飲めず、しくしくと泣いている。
「ところで、一登たちはどうしたんだろう?」
夕方になっても戻ってこない一登たちを、夏樹が心配すると、紙コップにお茶を注いでいた円が思い出すように口を開く。
「一登くんたちは、水無月姉妹と神奈家のもんと一緒に宝物庫に行ったんやかなかったっけ?」
「……そうだった。ソーニャさんが、武器か武具をくれるって言って、装備の薄い一登たちを連れて行ったんだった」
夏樹は言うに及ばず、安倍兄弟は式神などの能力があり、千手には魔眼が、銀子には魔剣、征四郎には神剣という武器がある。
小梅や、鬼姉妹のように武器を必要としない天使や鬼はさておき、三原一登は数日前まで一般人だった。水無月姉妹も、霊能力者であるが、千手や征四郎、銀子のように突出した強さはない。
ソーニャも、そのことを理解していたのだろう。
気前よく、宝物庫を開放してくれた。
もともと魔王ギーゼラは、夏樹たちに装備をくれる予定だったので、少し早まっただけだ。
ありがたく、頂戴することにした。
「遅いから心配だけど……まあ、義政さんがいるから大丈夫だろうね」
「……いや、そこは神奈征四郎の名前をあげてやれよ」
「あ、千手さん。飲まないの?」
夏樹と円の前に、千手が電子煙草を加えて現れた。
「昨日、飲みすぎたからな。正直、二日酔いが抜けてねえ。酒は好きだし、強い自信もあったが、ざるじゃねえからな」
「……ちょっと安心したよ! 大人って、あんなに飲むのが標準かと思っていたから!」
「なっちゃん、比較対象が銀子さんと兄貴じゃあかんよ。あのふたりは、うわばみやからね」
母春子が酒が好きで、酒に強いので、体質的には夏樹も酒が強いのだろうが、まだ中学生ということもあり、酒の臭いから得意ではない。
飲む気もないし、飲むことはルール違反だ。
「ま、俺が酒を飲まねえのは、二日酔いだけが理由じゃねえよ。わかってるだろ、魔族どもがこっちを気にしていることに」
「せやねぇ」
「千手さんも、円ちゃんも気づいていたんだ」
監視はもちろんだが、魔王城の影から伺う視線が昨日よりも増えていることに、夏樹たちは気づいていた。
「グランドルの旦那が俺たちと一緒にいるのは、単純に旦那が友好的なのもそうだが、他魔族どもへのメッセージも込めているんだろうな。問題ない、ってよ」
「魔族たちがボクらを気にするんもわかるんけどね」
オーガ族の族長グランドルを星熊童子が倒し、魔剣士クラースを銀子が殺し、獣人ダナーを祐介が叩きのめした。
夏樹たちの戦力を確認した魔族たちは、畏怖を覚えたのだろう。
魔族を蹂躙した由良夏樹だけではない、のだと理解したであろう。
魔王が友好的なので誤解しそうだが、魔族全員がグランドルたちのように気持ちのいい者ばかりではないのだ。
それは、仕方がないことだ。
力を重要視する魔族ゆえに、反発も今の所少ないが、ダナーたちのような跳ね返りも出てくるかもしれないので、魔王には期待している。
もしくは、勇者に敗北した魔王を魔王として認めないなどと言う魔族も出てくるかもしれないが、さすがにその辺りの魔族事情にまで足を踏み入れることはするつもりはないので、友好的なギーゼラに頑張ってもらいたいと思う。
「夏樹くーん!」
周囲を伺っていると、魔王城の中から一登たちが現れた。
全員が無事に戻ってきたようだ。
「一登ー! おかえりー! みんないっぱいやってるよー!」
「また!?」
おや、と思う。
一登の雰囲気が朝と違う。
強くなったというか、力が増した気がする。
それと、どことなく喜んでいる気もした。
一方で、ソーニャはなんだか疲れた顔をする。
「遅かったじゃない」
「ちょっと、いろいろあったんだ」
「あれ? なんかひとり多くね?」
一登、ソーニャ、澪、都、征四郎、義政、そして赤いドレスを身につけた縦ロールのお嬢様がいた。
「そちらの、おほほほほほほ、と高笑いしそうな方はどこのどなたですか!?」