作品タイトル不明
69「運命の出会いってマジであるんじゃね?」③
一登はゆっくり剣に向かって手を伸ばした。
「やめておけ、あの剣はお前には手に負えないって。敵と一緒に使い手を斬るような剣だぞ」
ソーニャは一登の腕を掴んだ。
必要があれば、折る、と彼女の目が言っている。
それでも、一登は剣を欲していた。
「冷静になれ。この剣を扱えた奴はいない。正当な使い手でも、狂って死んじまうんだ」
「……ソーニャさん、でも、俺は」
「由良夏樹に全部任せておけっていうのが嫌なのはわかる。それでも、死んじまうような剣に手を出してどうするんだよ! 仲間が、家族が悲しむだろ!」
「あらあら、酷い言い草ですわね。わたくしを悪意の塊のような言い方をするはやめていただけませんか?」
剣の背後に、少女がいた。
十六歳ほどの年齢に見える少女は、赤いドレスを身に纏った可憐な少女だった。
スレンダーな身体、黄金色に輝く長い髪は縦にロールされている。
声は一登とソーニャにしか聞こえなかったが、彼女が顕現すると同時に、姿も声も、この場にいるすべての者に届くようになる。
「出やがったな、性悪女」
「おーっほほほほほほ。お久しぶりですわね、ソーニャさん。あなたがわたくしの誘いを断って百年以上が経ったでしょうか? まさかまたお顔を拝見できるとは思いませんでしたわ」
「私もだ」
ソーニャと少女は顔見知りのようだった。
「ソーニャさんはこの子と知り合いなの?」
「知り合いっていうか、なんていうか」
「わたくしの使い手になれるというのに、むざむざと断った愚か者ですわ」
「言ってくれるな! へし折るぞ!」
「やってごらんなさい! わたくしを手にすれば、魔王にだってなれたはずが! いいえ、魔王になる実力がありながら、わたくしの使い手になれば、今も魔王として君臨していたはずでしたのに……もったいないことをした愚か者ですわ」
一登は驚いた。
魔王の母であるソーニャは、飄々とした雰囲気を持ち、強いのか弱いのかはっきりしないところがあった。
もちろん、強者であることは察していたが、まさか魔王になるほどの実力があるとは思っていなかった。
なぜ魔王にならなかったのか、気になることはある。
だが、一登は魔王にもなれたはずのソーニャを選んだ剣を自分が手にすることができれば、夏樹たちの力になれることを確信していた。
「……魔王っていうのは、強ければなれるもんじゃないんだよ。みんな、狂った魔神に支配されて、おかしくなった。狂気を得た者こそ、魔王だったんだ」
「だから、愚か者と言ったのですわ。あなたがわたくしを振るえば、そんな魔王を下すことも問題なかったでしょうに」
「そもそも、お前の手を取ったら、私は魔王になんか絶対になれなかっただろ」
「魔族の王なら魔王でしょうに」
「ふざけるな! ――お前が選んだ奴は、勇者になるじゃないか!」
一登だけではない、征四郎も、義政も、澪と都も、ソーニャがこの剣を手に取らなかった理由を察した。
魔族が勇者になるなど聞いたことがない。
異世界なのでありえるかもしれないが、夏樹や祐介が人間側に召喚されたことを見ると、勇者とは人間側の意味合いがあるのだろう。
「ふふっ、そうかもしれないですわね。でも、もうわたくしが欲しているのはあなたではなくてよ」
少女はそう言うと、一登に手を差し出した。
「――三原一登。わたくしがずっと求めていた正当な使い手。さあ、わたくしを手に取りなさい。さすれば、あなたは勇者となる! あなたの求める力を、わたくしが与えましょう!」
危険はあるのだろう。
彼女が善意だけではないと、なんとなく一登にもわかる。
それでも、一度欲した力を求める心は止まらない。
――なによりも、夏樹と祐介と同じ「勇者」になれることが、一登にはどうしても無視できなかった。
ソーニャたちがなにかを言っている気がするが、もう聞こえない。
一登はもう悩むことをやめ、少女の手を取った。
――少女は、一登の手が伸ばされた瞬間、嗤った。