作品タイトル不明
間話「ぜっくんもわくわくじゃね?」①
ブレイバーズ王国、王都。
「うわぁあああああああああああああああああああああああ!」
宮廷魔法使い筆頭レオニー・トットは、絶望の咆哮を上げ、自らの腕を魔法で引きちぎった。
見守っていた絶望の神ぜっくんも、レオニーの行動に驚く。
なにをするのか、と見守っていると、彼は婚約者アマリリス・ブレスコット第二王女の左腕を愛しそうに頬擦りすると、自ら引きちぎった腕の代わりに婚約者の腕を押し当てた。
回復魔法を無理やりかけ、アマリリスの腕を自分の腕と「誤解」させてつなぐ。
息も絶え絶えになったレオニーは、婚約者の左腕を自らのものにすることを成功させた。
「ふ、ふふ、ふふふふふふっ! アマリリス! これで僕たちはずっと一緒だ!」
狂気を宿すレオニーに、ぜっくんは感動の涙を流していた。
絶望をした人間を多く見てきたが、彼ほど絶望と幸福を抱えている者はいない。
最愛の人を失った絶望と、最愛の人と一つになった幸福が、混ざり合ってぐちゃぐちゃになっている。
「――だから人間は美しい」
「……理解できないな」
ぜっくんの隣には、いつの間にか青年がたっていた。
長身痩躯の二十歳ほどの青年だが、その身に纏う力は神のものである。
特徴的なのは、半分が黒髪、半分が銀髪であり、瞳もオッドアイだ。
「希望の、いたのか」
「お前が呼んだのではないか。それにしても、人間はいつだって狂っているな」
「彼の美しい姿を見てその感想とは、お前は残念な男だっ、な!」
「どうでもいいが、俺は希望の神ではない。希望を与えているにはいるが、少し違うことはよく知っているだろう」
「申し訳ない! だが、君の力は希望であろう!」
「その鬱陶しいテンションをやめろ」
青年はぜっくんに辟易しながらも、会話を続けた。
「俺は戦いが苦手なので裏方をさせてもらっているが、アマイモン一派は言うことを聞く気がないな。異世界に来るために俺たちを利用した、そんなところだろうな」
「わかっているさ! 彼らは彼らの好きなようにしていいのさっ! どうせ私たちには制御できないから、ねっ!」
「……アテーナーは協力的だ。ただ、彼女も古き神だ。俺たちと相容れない面は多い」
「そんなものでいいの、さ! 私たちは、この哀れなブレイバーズ王国を使い、魔族を殲滅し、新たな神話を作るのだから!」
「だが、魔族には由良夏樹がいるぞ」
「神話には強敵が必要なのさ! 私たちは、困難を乗り越えっ、この世界で唯一の神となろう!」
「ボロ負けしたのに偉そうに」
「おシャラップ!」
神と神がそのようなやり取りをしていると、レオニーは自分の左腕を拾い部屋から出ていく。
「絶望的なほど無視されてしまったな!」
「復讐に囚われている目だな。さて、なにをするやら」
興味があった神々は、レオニーを追いかける。
「そういえば、我々側についた名もなき天使たちはどうしたかな!?」
「八割は死んだぞ」
「――絶望的だ! え? なぜ?」
「お前が連れてきた、なんだったかな。勇者がいるだろ」
「綾川杏くんかな!?」
「あー、メンヘラじゃないほう」
「あー、松島明日香くんだね! 彼女がなぜ天使を!?」
「食った」
「ほわっつ?」
「エナジードレインを身体使ってやりやがって……天使とやりまくって食いまくって、えらいことになっているぞ」
「それは絶望的だ! 由良夏樹を絶望させるため、彼女を勇者に選んだが……ミスっちゃった?」
「ミスったな。人間も手当たり次第、食ってるようだし、もう放っておけ。力を溜め込んで強くなってることは間違いないから、関わらずにいたほうが賢いだろうな」
「なんと絶望的な少女だ!」
ぜっくんと青年が後ろで談笑しても、レオニーは振り返りもしない。
まるで耳に入っていないのではないか、とばかりに迷うことなくとある部屋の前に現れた。
「――れ、レオニー様」
「どけ」
扉の前に立つメイドと騎士が、レオニーを見つけて驚いた顔をした。
無理もない。
彼は血まみれであり、腕を持っている。
誰でも、何事か、と思うだろう。
「ベアトリス・ブレスコットに用事がある。どけ」
「ベアトリス様は両腕を失い、痛みに苦しんでおります! 面会はできま――」
「貴様の意見など聞いていない」
メイドが炎に包まれた。
絶叫さえできず、ごとん、と音を立てて転がる。
騎士が抜刀しようとすると、繋いだアマリリスの細い腕で首を掴みへし折った。
「なかなか絶望的だな! これから何をするのか想像できなくて、絶望的に楽しみ、だ!」
「……お前も悪趣味だな」
ぜっくんが期待し、青年が呆れる中、レオニーは第一王女ベアトリス・ブレスコットの部屋に入った。