作品タイトル不明
63「偽物じゃね?」
由良夏樹は絶句していた。
祐介が強いことは知っていた。
境遇ゆえに、未成熟であり、これから強く成長していくことをわかっていたつもりだったが、想像以上の伸び代があることを短い戦いを見て気づいた。
しかし、それ以上に驚いたこともある。
それは、夏樹だけじゃない、向島愚連隊の面々はすべて驚きに目を見開いていた。
「祐介くんがちゃんと戦ったぁああああああああああああああああああ!?」
「信じられんのじゃぁあああああああああああああああああああああああ!」
「やべええええええええええええええええええええええええええええっす!」
夏樹たちは、祐介が魔族の、それも美人な獣人ダナーと戦ってちゃんと戦ったどころか、大地の勇者の特性を活かし、きちんと倒したことにも驚いていた。
佐渡祐介は優しい男だ。
人を傷つけることをよしとしない。
そんな彼が、拳を握りしめ、ダナーを殴り飛ばした。
彼の一撃に、どれほどの覚悟が込められているのか、夏樹たちでは察するに余りある。
「……いや、俺は見たぞ。佐渡の奴、ちゃんと足撫でていやがったぞ」
「待ってダーリン! 撫でただけじゃん! あいつ、あたいと戦ったとき、足舐めたぞ!」
「……そうだったな。ちゃんと戦ったほうか……あとダーリンって呼ぶな」
冷静な千手が突っ込むが、虎童子の言葉に、祐介が今回は真面目に戦ったのだと納得する。
「おーい、夏樹くーん!」
祐介の戦いに動揺していると、リングの上から祐介が夏樹を呼んでいる。
「夏樹、呼んどるぞ」
「きっとヒールのお願いっすね」
「ここから祐介タイムが始まるんじゃな」
「きっとダナーさんは可哀想な目に遭うんすね、わかるっす」
「ふたりともひでぇ! とりあえず、救護班いきまーす!」
夏樹が再びリングの上に跳ぶ。
「祐介くん、ナイスファイト!」
「ありがとう」
「個人的な感想だけど、祐介くんは今でも十分強いんだけど、頑丈な武器があったら無双できると思う」
「実を言うと、僕もそう思ってたんだ。……でも、武器の話は今度にしよう。今は、彼女を治療してほしい」
「はいよ!」
リングの上に力なく倒れるダナーに、夏樹はヒールをかける。
足が折れ曲がり、鼻が潰れ、頬が陥没しているダナーは控えめに言って重症だが、魔力ゴリ押しヒールによって、戦う前の姿に戻った。
「……くっ、殺せ」
ダナーは自らの肉体が回復したことに驚いた顔をしたが、すぐに大の字に寝転がり、抵抗をやめた。
「くっころ、どうもありがとうございますー!」
「……祐介くんがちゃんと祐介くんしてて安心した。やっぱり祐介くんはこうじゃないとね!」
「……夏樹くんは僕のことを誤解している気がする」
やっぱり祐介は祐介だった。
夏樹はほっと息をつく。
「ダナーさん、僕はあなたを殺すつもりはないよ」
「……ならば、私は敗者だ。約束通り、従順となろう。辱めるなり、なんなりするといい。私は文句ひとつ言わず、生涯お前に従順となろう」
強さを重視する魔族ゆえか、それともダナーの性格なのか、彼女は敗者としてどのような目に遭おうとかまわないと公言した。
実際、酷い目に遭っても文句は言わないだろう。
しかし、祐介は不機嫌な顔をする。
「殴った僕が言うことじゃないのかもしれないけど……ダナーさんは女の子なんだから、もっと自分を大切にしないといけないよ」
ダナーを気遣う祐介を見て、夏樹の瞳にじわりと涙が浮かんだ。
「うわぁーん! 俺たちの祐介くんをどこにやったー! 俺たちの祐介くんを返してよー!」
「ちょ、どういうこと!? さすがに心外なんですけど! 僕は魔族っ子が大好きな紳士ですから!」
腕をぐるぐる回しながら、偽祐介に迫るのだった。