作品タイトル不明
62「大地の勇者だって強いんじゃね?」②
「がぁ!」
短く吼えダナーが体勢を立て直して、祐介に襲いかかる。
渾身の蹴りが祐介の腹部に放たれる。
「――はぁっ!」
脇腹に向けて蹴りが当たる瞬間、祐介が腹部に力を入れる。
祐介はやはりダメージを受けていない。
「攻撃に怯えが出てしまったね。わかるよ、理解できないものは怖いからね」
ダナーの足をそっと撫でてから、祐介は力強く掴む。
「もう一度行くよ?」
「――が」
ダナーが抵抗すべく拳を繰り出すが、祐介は気にせず、再びリングの石畳に彼女の身体を叩きつけた。
「――がっ、ぁ」
圧倒的なパワーだった。
攻撃を喰らっても平然としている防御力も、目を張る。
同じ勇者の夏樹のように派手さはないが、戦場ではこういう相手が一番怖いのだ。
「……馬鹿な……ダナーは四天王よりも強いんだぞ?」
誰かの声が響く。
祐介の耳にも、その声が届いていた。
嘘とは思わない。
ダナーから放たれた一撃は、この世界で喰らった攻撃の中で一番重かった。
しかし、それだけだ。
祐介には通じないし、何度食らっても、倒れることはない。
最初の一撃を放ったとき、祐介の異様さを本能で察したのだろう。
ゆえに、ダナーは恐怖に怯えたような仕草をした。
獣のような彼女だからこそ、祐介の異質さを誰よりも理解してしまったのだ。
「降参してくれるかな?」
足から腕を離すと、ダナーはまだ力が残っているのか、また祐介から離れたかったのか、大きく跳躍して後退し、足が折れていることを気づいて、膝をつく。
「ああ、ごめんね! 力を使いこなせていないから、ちゃんと手加減できなかったみたいだね」
「……なんだと」
「僕はあまり戦う機会がなかったんだ。それに、戦いのときは、少しでも早く戦いが終わるように全力で暴れていたから、手加減に慣れていなくて。ごめんね」
祐介は本当に申し訳なく思いダナーに謝罪した。
魔族に好意しか持たない祐介にとって、魔族との戦いは避けて通れないものであり、戦いの覚悟もしている。それでも、ダナーを傷つければ、心が傷むのだ。
「僕は魔族さんを傷つけたくないんだ。降参してくれないかな?」
「……おま、え」
祐介の善意の言葉は、戦士であるダナーを煽りに煽ることとなった。
「お前ぇええええええええええええええええええ!」
「え? なんでそんなに怒るの!?」
ダナーの魔力が爆発する。
折れた足で立ち上がると、絶叫をあげて突っ込んでくる。
二度の攻撃を超える、圧倒的な力だ。
「おっと、さすがに受けてあげるわけにはいかないかな。――ごめんね」
祐介は拳を握りしめた。
初めて、攻撃する意思を見せたのだ。
「うるあぁああああああああああああああああああああ!」
ダナーは早い。
足が折れているとは思えない、速度だ。
魔力で一時的に、痛覚を遮断している可能性もある。
ダナーが祐介の肩を掴んだ。
鋭い爪が祐介の肉体を傷つけ、血が流れる。
すべての爪が食い込んだわけではない。一部は割れ、指も折れている。
よほど強く掴んだのだろう。
そして、ダナーは鋭い犬歯が並ぶ口を大きく広げると、祐介の首筋に向かい噛みつこうとする。
「夏樹くんの技を借ります! ――勇者ぱんち!」
――ダナーの牙が祐介に届くよりも早く、渾身の力がこもった一撃が彼女の顔面に突き刺さり、そのまま石畳に叩きつけた。