作品タイトル不明
64「魔王さんは苦労するんじゃね?」
「――そこまでだ!」
闘技場に魔王ギーゼラの鋭い声が響いた。
「いい加減にしてもらおう。人間に不満を持っているのは重々に承知しているが、人間全てが魔族に悪感情を抱いているわけではないと知るべきだ。なによりも、彼らは、この世界の住人ですらない。我々の怒りをぶつけることは間違っている!」
異世界から召喚された勇者由良夏樹が、魔王軍を蹂躙したが、彼は魔族に悪感情があったわけではない。
目的のため、戦ったに過ぎない。
魔王ギーゼラは、かつて夏樹と相見えた際、「異世界人ならばこちらの人間に義理はあるまい。魔族につかぬか?」と打診したことがあるが、彼の返事は「故郷に帰りたい」だけだった。
帰るために、魔族が、魔王が邪魔なのだという。
ならば、仕方がないと戦い、敗北した。
恨みがないと言ったら嘘になるが、それは夏樹に対するものよりも、彼のような無関係の者を召喚し、代わりに戦わせたことだ。
もう少し恨み言を言うならば、狙って召喚したわけではないだろうが、随分と当たりを引いたものだと、吐き捨てたい。
だが、ブレイバーズ王国も運が尽きたのだろう。
夏樹はあくまでも故郷へ帰還するために戦っていただけであり、この世界の人間のためには戦っていなかった。
結果として、魔族と人間の戦争など気にしていないとばかりに帰ってしまったのだ。
焦って勇者を再び召喚したブレイバーズ王国側だが、召喚を行ったベアトリス・ブレスコットは、よりによって夏樹の友人を召喚してしまい、あろうことか処刑しようとした。
結果、腹心の騎士と両腕を失った。
ブレイバーズ王国側には、他の勇者や、別世界の神や魔族がいるようだが、それらは夏樹たちが請け負って戦ってくれる。
ならば、魔族は夏樹たちが人間だからと不満を抱くのではなく、人間なのに我らと共に戦ってくれることを、関係のない世界の住人のために戦ってくれることを感謝しなければならない。
(……まったく、会議でそう言い聞かせたのだが、やはり跳ね返りたちはどこにでもいる。頭が痛いな)
願わくは、今回の戦いが見せしめになればいい。
魔族最強の剣士魔剣王クラインズに次ぐ魔剣士であるクラースも、四天王よりも実力を持つ虎族のダナーも、人間に勝てなかった。
彼らより強い魔族は百も満たない。
これで、無駄に戦って死ぬ民が減ればいいと心から願う。
「勇者よ、そして異世界の人間たちよ。見事な戦いだった。これであなた方の強さが疑われることはないだろう! どうか、これからも魔族と共に歩んでくれると嬉しい!」
魔王の言葉に、観客席にいた各種族の族長と重鎮たちが、立ち上がり、胸に手を当てて礼をした。
――力を見せつける結果にはなかったが、これで夏樹たちと魔族たちは足並みを揃えて戦えるだろう。