作品タイトル不明
61「大地の勇者だって強いんじゃね?」①
高校時代の制服がブレイバーズ王国で酷い目にあったことで駄目になってしまった佐渡祐介は、夏樹のアイテムボックスから出してもらった予備の学生服に身を包んでいた。
軽く腕や首を回す。
思っていた以上に身体は軽い。
「異世界に戻ってきたことで、僕の心がどうなっちゃうんだろうって心配していたんだけど――どうもならなかったね」
祐介は苦笑する。
「僕自身が思っていた以上に、この世界のことなんて、どうでもよかったみたいだ」
最初の異世界は散々だった。
尊厳を踏み躙られて、死んだほうがマシだと思う目に遭った。
人間の嫌なところをたくさん見てしまい、奇跡的に日本に戻ったあとも人間不信になってしまった。
――そんな祐介を救ってくれたのが、夏樹たちだ。
過去を思い出す暇がないほど、いろいろなことがあった。
一日が長く、濃くて、思い返しても笑いが込み上げてくる。
そんな夏樹たちと一緒ならば、二度目の異世界も怖くないはずだと挑んだ。
自分だけ、転移先が因縁のある国で、やっぱり散々な目に遭ってしまったが、もう気にしない。気にならない。
――佐渡祐介は、異世界を克服しつつあった。
「……ぐるるっ、私は勇者と戦いたかったんだがな!」
「安心してほしい。夏樹くんほどじゃないけど、僕も勇者さ」
「なんだと?」
犬歯を剥き出しにして唸る獣人ダナーに、祐介は大きく腕を広げた。
「僕は佐渡祐介。不本意ながら、この世界に召喚された過去を持つ――大地の勇者さ!」
どこまでも青い異世界の空の下で、祐介は友のために、仲間のために、戦うのだ。
■
「……大地の勇者だと? ふん。いいだろう」
「受け入れてもらえて嬉しいよ。じゃあ、戦おう」
祐介は、広げていた手を一度下ろすと、左足を一歩前に出し、構え直す。
ダナーも、腰を低くして唸った。
合図は必要なかった。
祐介とダナーの目が合った瞬間、戦いが始まった。
「がぁああああああああああああああああああああ!」
戦声を上げてダナーが、身を低くして疾走する。
その姿はまさに、大地を走る虎のようだ。
どこまでも愚直に、突っ込んでくる姿から、よほど実力に自信があるのだろうと察した。
「おいで。僕は平和主義だから殺さないように気をつけてあげるよ」
「舐めるなっ!」
かつて、遠野の妖怪の里で、戦意喪失してしまったことがある。
人間よりも人外が好きな祐介にとって、妖怪が人を襲う、害を与えることを受け入れられなかった。
だが、今は違う。
人間も妖怪も、魔族も、神々だって同じだ。
善人もいれば悪人もいる。
善人ならば、友人になれるだろう。
悪人ならば、倒せばいい。
もちろん、グレーゾーンに立つ者はたくさんいるだろう。
祐介自身も、自分を善人だとは思わない。
それでも、敵は敵として倒し、味方は守ろうと割り切ることはできるようになった。
祐介にとって、大事なのは家族と友人たちなのだから。
それ以外は、自分の手に余る。
余裕があるときに、少しだけ手を伸ばすことができればいい。
――まずは、目の前の相手から倒そう。
――ただし、敵ではないので殺してはならない。
復帰戦にはよい一戦だと思う。
祐介は大きく息を吸う。
魔力が身体中を駆け巡っていく。
かつて勇者として召喚されたときには、ほとんど使われることのなかった勇者の力が発動した。
「うるぁあああああああああああああああああああああ!」
スピードに乗ったダナーの拳が祐介の鳩尾に刺さった。
力と魔力の籠った素晴らしい一撃だった。
祐介が戦った、この世界の魔族の中で一番の強さを持つかもしれない。
「う、あ」
声を上げたのは、祐介ではなく、攻撃をしたダナーだった。
攻撃したはずの彼女が、戸惑いと怯えを見せている。
祐介はそんな彼女に優しく微笑むと、そっと彼女の腕を握り締め、強化された膂力によってリングの石畳に叩きつけた。
リングは蜘蛛の巣状に砕けた。
「改めて、名乗ろうかな。僕は、佐渡祐介。大地の勇者さ。僕の力は――笑えるほどの防御力と、膂力だよ」