作品タイトル不明
60「大地の勇者の出番じゃね?」
「ゆ、祐介くん? いや、ここは俺に任せておいてよ。時間はかけないからさ。それに、祐介くんはまだ病み上がりだし、ね?」
祐介が獣耳を生やした獣人の女性に興味を抱くのはわかるが、彼はつい昨日まで囚われのみであり、酷い暴力を受けてもいた。
そんな彼の身体はヒールで癒えたものの、心の傷は魔法では治らない。
夏樹は、友人を思い遣って、自ら戦おうとする。
「待ってほしいな、夏樹くん。その役目、この大地の勇者佐渡祐介に任せてくれないかな」
しかし、祐介は夏樹のちらりとも見ず、虎族の戦士ダナーを真っ直ぐに見つめている。
「いえ、あの」
「待ってほしいな、夏樹くん。その役目、この大地の勇者佐渡祐介に任せてくれないかな」
祐介は、やはり夏樹のほうを向かない。
瞬きせず、ダナーを見つめ続けるのは控えめに言って怖い。
「いや、だから」
「待ってほしいな、夏樹くん。その役目、この大地の勇者佐渡祐介に任せてくれないかな」
「ちょ、待って、肩が、肩がぎりぎりって、強ぉ! 力ぁ強ぉ!」
「待ってほしいな、夏樹くん。その役目、この大地の勇者佐渡祐介に任せてくれないかな」
同じ言葉を繰り返し、これでもかと手に力を込める祐介に――夏樹は屈した。
「は、はい、お任せしましゅぅ」
「――ありがとう」
にこやかな笑みを浮かべる祐介は、一見すると爽やかな青少年だ。
だが、夏樹は知っている。
彼の内側には魔族への好意と、人間に対するドス黒い感情が渦巻いているのだ、と。
「……まあ、祐介くんなら万が一もないか」
夏樹は祐介に任せることにして、観客席に跳んで戻る。
「くぉら、夏樹」
「へい」
観客席で待っていたのは、なんで祐介に任せたのか、と疑問を抱く小梅たちだった。
「銀子のボケが魔族殺しよったのはええとして、祐介が魔族辱めたら大問題じゃぞ!」
「でも、祐介くん瞬きしないでずっとダナーさん見てて怖いし」
「じゃかしい! 今からでも交代してこんかい!」
「――や!」
「子供か!」
夏樹は小梅に首を揺さぶられてしまうが、千手が止めてくれた。
「まあ、待ちなって姐さん。佐渡だって、ここで馬鹿なことをすることは流石にしねえだろう。…………しないよね?」
「千手さん!? 最後まで自信持って!」
「おどれも不安になっとるんじゃが!?」
夏樹たちは、一抹の不安を覚えながらリングに立つ裕介を見守ることをにした。