作品タイトル不明
59「結局、魔剣太郎の名前は不明なんじゃね?」
銀子は、崩れ落ちるクラースを見送り、
「――ふう」
と、大きく息を吐いた。
「私が戦った中で一番の強敵でしたよ。魔剣太郎がなかったら、死んでたっすね」
どさり、と音を立ててクラースが倒れた。
血溜まりが広がっていく。
「せっかくなのでクラースさんの魔剣を戦利品として頂いちゃいたいっすけど、あらら、刃こぼれしまくってるじゃないっすか。魔剣太郎のほうが魔剣としては上だったようっすね。なら、別にいいっす」
拾った剣を宙に放り投げると、いつの間にか手に戻っていた魔剣太郎を振るう。
甲高い音が響き、クラースの愛剣が真っ二つになった。
「銀子さん完全勝利っす!」
満足した顔をした銀子だが、闘技場は静寂に包まれていた。
魔剣士クラースがあっけなく殺されたことか。
人間の銀子が苦もなくクラースを殺したことか。
人間と共闘する話の最中に、人間が魔族を殺したことか。
夏樹以外の人間を舐めていた魔族たちが、認識を改めたのか。
それとも、そのすべてか。
「いやいやいやいやいやいやいや! 銀子さん、殺しちゃったの!?」
「あ」
「あ、じゃないよ! スターベア童子さんだって気を使ったのに!」
「でもクラースさんはやる気満々でしたし、決闘って言っていたじゃないっすかー。か弱い銀子ちゃんは手加減なんて器用な真似できないっすよー! 基本スペックは向こうのほうが上っすもん!」
「……ま、いっか!」
「さすが夏樹くん! そういうところが大好きっす!」
「どやぁ!」
リングに飛んできた夏樹がツッコミを入れたが、クラースは殺されても仕方がないと思った。
グランドルのように紳士ではなく、人間を認めない、人間を殺す、という前提で決闘を仕掛けていた。
銀子の言葉ではないが、師匠を殺されたことが気に入らないのなら、夏樹に挑んでくればいい。
しかし、クラースは、夏樹ではなく、夏樹以外の人間と戦った。
剣の腕がどうこうではなく、その程度の魔族でしかなかったことは間違いない。
(それにしても、銀子さんが強いことは立ち振る舞いでわかっていたけど、想像以上だったなぁ。普段、お酒飲んでいるイメージしかないから脳が別人って認識してバグりそう!)
割と失礼なことを考えながら、夏樹は魔王に顔を向ける。
「――あいつが売ってきた決闘だ。殺したからって、文句はないよな?」
静寂の中、夏樹の声が響き渡った。
魔族たちの視線が魔王に集まる。
「無論だ。むしろ、意見を統一できずに申し訳ない」
「人間と戦争中だからね。責めはしないよ」
「感謝する」
夏樹と魔王は頷きあう。
ある意味、不穏分子となる可能性のあるクラースを殺しておいてよかったと思えた。
人間と戦いを始めたあとに、反乱でも起こされたら面倒だ。
「それで、あんたはどうするの?」
夏樹は、魔王から虎族のダナーに視線を動かした。
腕を組んでリングを真っ直ぐ見つめていたダナーは、尻尾を動かす。
足に力を入れて跳躍すると、リングの上に現れた。
「――由良夏樹」
「なんだよ」
「私は、クラースとは違う。力を示せば、従順になろう!」
「いいよ。力の差を見せてやるよ」
にぃ、と夏樹が笑う。
ダナーは、クラースと違って、人間を恨んでいても、気持ちを割り切ることはできるようだ。だが、そのためには、戦うことが必要なのだろう。
大した時間がかかるわけではない。
夏樹が相手にしようと拳を握り締めた。
「待ってほしいな、夏樹くん。その役目、この大地の勇者佐渡祐介に任せてくれないかな」
しかし、そんな夏樹の肩を、祐介が軽く掴んだ。