作品タイトル不明
52「ラブコメは唐突に始まるんじゃね?」②
オーガ族の族長グランドルの突然すぎる求婚に、
「いやぁああああああああああああああああああああああああああ!?」
星熊童子ではなく、観客席から祐介が叫んだ。
「いや、なんで祐介が絶叫しておるんじゃ!?」
「そりゃしますとも! 俺の星熊さんを!」
今にもリングに跳んでいきそうな祐介の襟首を小梅が掴んだ。
「姉貴はてめーのもんじゃねえよ!」
「べあべあっ!」
続いて、虎童子と熊童子が祐介を殴る。
「へぶっ、ありがとうございます!」
夏樹は、恍惚な顔をして倒れる祐介を無視してリングの上に視線を戻した。
グランドルが星熊童子に惚れるとは思いもしなかったが、ちょっとわくわくどきどきしてしまう。
「……はっ、笑わせんな。俺は弱い奴に興味はねえ」
グランドルの求婚を、星熊童子はあっさりと断った。
「つーか、お前、息子がいるだろ! 俺を愛人にでもするつもりかよ!」
「いや、それは」
確かに、グランドルには、ゴールンとガイオンという息子がいる。
つまり、彼らの母親である妻もいるはずだ。
「待ってほしい!」
「待ってくれ!」
リングの上に、グランドルの息子が現れる。
ふたりは、父の後ろに立ち、星熊童子に言葉を発した。
「我ら兄弟は、父と本当の子供ではない」
「そうだ。俺たちは、戦場で親を失った戦災孤児だが、父に引き取られ、我が子のように!」
急な、家庭事情に夏樹たちはびっくりする。
星熊童子も同じだ。
まさか、グランドルの子供が養子とは思わなかった。
魔族たちに動揺はない。おそらく、ゴールンとガイオンが義理の息子であることは知っているのだろう。
「よせ、お前たち! 血のつながりがなくとも、我らは親子だ!」
「――父上」
「……親父」
グランドルたちの親子の絆は本物だ。
これには、魔族側から拍手が起きていた。
「あー、なんだ。家庭事情を知らずに勝手に言って悪かったな」
星熊童子も、予想とは違う展開にちょっと困り顔だ。
「だけど、それはそれ! これはこれ! 俺は、弱い奴に興味はない! 俺を娶りたかったら、俺よりも強くなってからにしろ!」
そう言って、星熊童子は背を向ける。
戦いも終わり、話すこともないと、切り上げたのだ。
そんな彼女にグランドルが声を張り上げる。
「わかった! あなたがこの世界にいる間に、俺は強くなる! そして、再びあなたに求婚しよう!」
「はっ、勝手にしやがれ!」
星熊童子が地面を蹴って観客席に戻ってくる。
「ったく、楽しい喧嘩のはずがとんでもねえことになったぜ」
「……そう言いながら、満更ではないスターベアさんでした」
「ふざけんな! 俺は強い奴じゃないと嫌だ!」
星熊童子の好みは、あくまでも強さが重視されるようだ。
「ま、いいけどさ。――ヒール」
「おう、悪いな」
本人は元気だが、彼女のダメージは結構大きかった。
よくもピンピンしているものだと夏樹は感心する。
ヒールによって、完治した星熊童子は、ちらり、と息子たちに肩を借りてリングを降りるグランドルを見た。
「おい、大将」
「うん?」
「あー、なんだ、あいつにもヒールしてやってくれねえか?」
「……スターベアさんのツンデレぇ!」
「ちげえし! 俺だけ回復してもらったら、なんか嫌だろ!」
「はいはい、そういうことにしておきますって」
夏樹がリングに降り、グランドルにヒールをかける。
流れた血こそ消えないが、グランドルの身体が修復された。
「……勇者よ、感謝する」
「いいっていいって」
グランドルが感謝の言葉を告げると、息子たちも深々と頭を下げた。
気持ちはわかる。
グランドルは星熊童子よりも重症だった。
むしろ、よく求婚をしたと思うほど、身体中にダメージを負っていた。
少し、感心してしまう。
「勇者と戦うことができなかったのは残念だが、きっと俺では手も足も出なかったのだろうな」
「そんなことないと思うけどな」
「ふっ、気を使わずともよい。約束通り、俺は喜んで勇者由良夏樹とその仲間たちと共に戦おう。オーガ族の総意だ」
「よろしくね、グランドルさん」
夏樹の差し出した手を、グランドルが握る。
「ああ、こちらこそ、よろしく頼む」
想定外のことはあったが、オーガ族は夏樹たちを認めてくれたのだった。