軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51「ラブコメは唐突に始まるんじゃね?」①

静寂が闘技場を支配していた。

四天王の中でも、最も攻撃に特化したオーガジードルの弟であり、同等の力を持つグランドルが、一回りも小さい少女に負けるなど誰も思わなかったのだろう。

だが、少女はただの少女ではない。

京都の鬼を統べる酒呑童子の娘である、星熊童子だ。

父親の酒呑童子、姉の茨木童子に比べてどのような鬼かどうか有名ではない。

しかし、酒呑童子の娘だけあって、そのポテンシャルは凄まじいものがある。

星熊童子は、力と防御に特化した鬼だ。

とにかく頑丈な肉体を持つ。

その肉体が傷ついても、即座に回復する生命力を兼ね備えており、彼女を殺すには圧倒的な火力と手数で押し潰すしかない。

酒呑童子、茨木童子でも、星熊童子を殺すには苦労する。

優れた肉体を持つ鬼から放たれた攻撃は、数々の防御自慢を砕いてきた。

ゆえに、妹の虎童子、熊童子は星熊童子が、体格が一回りも大きいオーガ相手でも勝利した姉に驚きはしない。

もちろん、手を叩いて勝利を祝っているが。

魔族たちは、自分たちの認識を改めることになる。

あくまでも強いのは聖剣に選ばれた勇者由良夏樹だと思っていた。

彼がいなければ、魔族のほうが強いのだと。

しかし、それは誤りだった。

勇者由良夏樹は強いだろう。

だが、彼の仲間たちも恐るべき強さを持っているのだと理解した。

「さすが姉貴! あたいらの姉貴だぜ!」

「べあべあべあー!」

星熊童子の勝利に、虎童子と熊童子が手を叩いて喜ぶ。

負けることなど微塵も想像していなかったが、姉が勝つと嬉しいものだ。

「スターベアさんって意外と強かったんだね」

「……茨木童子だけが恐ろしく強いだけやったら、自分らも死にもの狂いでなんとかしようとしたかもしれへん。せやけど、星熊童子はんはもちろん、虎童子はん、熊童子はんも自分らが逆立しても勝てへんから京都中の霊能力者が頭を抱えとったんよ」

東雲も、星熊童子の敗北は微塵も考えていなかったようだ。

夏樹は、星熊童子たちときちんと戦ったことはない。

それなりに強いと考えていたが、想像していたよりもだいぶ強いようだ。

「あたいらが強いのは当たり前だろ!」

「べあべあ!」

「何百年、おっかねえ茨木童子にぶっ飛ばされてきたと思っていやがる!」

「べあ!」

「あの茨木童子と一緒に生活してりゃ、勝手に強くなるに決まってんだろ!」

「……べぁ」

「なんか悲しい!」

虎童子、熊童子の言葉に、夏樹は泣きそうになる。

ぐっと堪えて、虎童子に缶ビールを、熊童子に蜂蜜をアイテムボックスから取り出し渡した。

「元気出してね」

「慰めんな!」

「べあ!」

文句を言いつつ、虎童子はビールを受け取り飲み出し、熊童子はビンに頬擦りをする。

「つーか、向こうもまだ終わってねえんじゃねえか?」

「べあ!」

「ん?」

「星熊の姉貴は強えけど、オーガの族長もそれなりにやるんだろう? ほら、まだ死んでねえ」

「べあべーあ」

「いやいや、死ぬまで戦っちゃ駄目だからね。決闘って言っても、もうこまでやる必要は……正直、殺してもいいけど、それじゃ友好もクソもないからさ」

グランドルのことは好ましいが、まだやるのであれば待っているのは死だ。

もっとも、魔王が止めるだろうとは思っている。

「ほれ、まだ動くぜ」

虎童子が顎で指すと、砕けた壁からグランドルが起き上がってリングに戻ってくる。

「いい目をしていやがる。あれは、まだ勝負を捨てた目じゃねえな」

グランドルの闘志を読んだ虎童子が飲み干した缶ビールを握り潰す。

両腕を使えなくされたグランドルがここからどう巻き返すのか、夏樹も興味を抱いた。

「……ここまでやられたのは魔王様以来だ。意識が飛んでしまった」

「殺さないように加減してやったんだ。ありがたいと思え! おら、続きやるなら、かかってこいや!」

星熊童子もやる気満々だ。

そんな彼女の前に、グランドルが跪く。

「――あん?」

怪訝な表情を浮かべた星熊童子をグランドルがまっすぐ見つめた。

「――惚れた。結婚してほしい」