作品タイトル不明
42「幽霊って怖くね?」
テントの中で、由良夏樹は目を覚ました。
隣には、寝袋に包まった三原一登が寝息を立てている。
「ふあ」
小さくあくびをすると、寝袋から出てテントの外へ。
「……朝日が眩しい。異世界でも朝日って綺麗なんだなぁ」
かつて異世界にいたとき、朝日をのんびり見たことがない。
目にしたことはあるが、だからといってなにかを思うことはなかった。
「おはよう、由良夏樹」
「おはようございます、夏樹さん」
「あ、征四郎さん、義政さん、おはようございます」
歯ブラシとコップを持って歯磨きに現れた神奈征四郎と神奈義政と挨拶を交わし、夏樹も歯磨きを始めた。
少し離れた場所には、コーヒーをドリップしている七森千手がいた。
彼は夏樹の視線に気づくと、軽く手を挙げる。
夏樹を手を上げて返事をした。
「昨日は大変だったようだな」
「ご迷惑をおかけしました」
「いや、俺はなにもしていない。安倍東雲とともに万が一の襲撃に備えて中庭で警戒していただけだ」
征四郎も夏樹の叫びは聞いていたが、そんなときだからこそ、最悪の事態を考えて警戒していたのだ。
魔王は友好的だが、それは勇者由良夏樹がいるからこそ、と考えている。
彼女の性格を考えると、友好的な人間を無下にすることはないだろうが、人間を憎む配下まで抑えることはできないだろう。
実際に、征四郎たちはオーガ族と揉め事を起こしている。
なので、夏樹になにかあった瞬間に、襲われる可能性もあった。
実際、夏樹たちは監視されている。寝ている間も、現在も、視線は常に感じている。
だが、襲撃はなかった。
夏樹が苦しんでいたのが一時間ほどだったという理由もあるだろうが、魔王が約束したように共に人間と戦うからであるという証明のためでもあるだろう。
「さてと、今日は各種族と顔合わせか。とっとと人間と戦いたいんだけど」
「順序も大事ですよ」
「義政の言うように、順序は大事だ。君がひとりで人間を倒しても、魔族は納得しないだろう」
「ですよねぇ」
夏樹としては、魔王と一緒にすぐにでも人間側に攻め込みたい。
それをしてしまうと、他の魔族が納得しないこともわかっている。
この辺りは、魔王の言うようにするしかない。
「朝食は、パンとスープでいいかな、シリアルや果物、ヨーグルトなんかもあるよ」
「牛乳はあるか?」
「もちろん」
「僕は朝は、コーヒーとトーストをいただきたいですね」
「……さすが義政さん、コーヒーを嗜まれるとは……俺には苦味が駄目っす」
義政少年は、眼鏡をくいくいする。
「慣れると苦味の奥に香ばしさや甘さがあるんですよ」
「……俺、中学生だからわかんない!」
「千手さんの手つき……毎日コーヒーを飲んでいる方とお見受けします。さあ、夏樹さん。千手さんの淹れたコーヒーをいただきましょう」
「えー、俺、苦いの嫌ぁ!」
「義政、俺の分も頼んでおいてくれ。素振りをしてからそちらにむかう」
「わかりました。では、夏樹さん、いきましょう」
義政に手を引かれる夏樹は、征四郎の背中から黒ずくめの少女が「にたぁ」と笑っている姿を見てしまった。
「ひゅっ」
変な声が出た。
「安心してください、彼女は征四郎おじさんに憑いているだけで害はありません。見てくれは怖いですが、見守ってくれているようです」
「……あ、あれでぇ?」
夏樹は大人しく義政と共に千手のもとに向かった。
「……なぜか由良夏樹がこちらを見て目を見開いていたのだが」
征四郎は背後を振り返る。
だが、なにもいない。
「まあいい、日課の素振りだ!」
深く考えないことにして、上半身裸になると神剣を抜き素振りをはじめた。