作品タイトル不明
41「師匠よりもお師匠様の呼び方のほうが雰囲気でね?」
夏樹たちはバルコニーから中庭に移動した。
「用事も済んだし帰ろうかのう」と言い出した老人を引き留め、感謝と共に酒を振る舞った。
別世界の酒の誘惑に老人は足を止めて、「馳走になる」と言ってくれた。
酒盛りに、はすでにしたので賑やかになることはなかったが、みんなで酒を片手に乾杯をした。
「ほっほっほ、別世界の日本といったかのう、この酒は美味い。味もだが、香りも米の風味が豊かだのう」
「気に入っていただけてよかったです」
「この焼酎もよいのう。少し癖があるが、それがよい。まさか芋からこのような酒が作れるとは……この世界のドワーフに見せたら奪い取られるぞ」
「……そんなことになったら、うちの飲兵衛たちが魔族相手に大暴れしそうですねぇ」
「ほっほっほ」
「いや、笑えないですから」
一通りみんなで酒を飲んだあと、小梅たちは気を利かせて夏樹と老人をふたりにしてくれた。
聖剣さんも消えてしまって、いない。
「そもそもドワーフさんも結構殺したんだよなぁ。珍しい酒があってもきっと仲良くなれないと思うんですよねぇ」
「ほっほっほ。ドワーフ族は、鍛冶屋であると同時に戦士である。正々堂々戦ったのであれば、戦士の誉として受けれる度量はあるだろう」
「……正々、堂々?」
「…………」
「…………」
「……正々堂々戦わんかったのかのう?」
「一対一でちゃんと戦っていませんね。基本的に、俺と聖剣さん対魔王軍でしたから」
戦争に卑怯だなんだと言うつもりはない。
ただ、魔族側はとにかく数で夏樹を潰そうとした。
それを正々堂々と言えるかどうかは怪しい。
ただ、作戦としては間違っていないだろう。
「……ドワーフは本来気持ちのよい性格を持つ者ばかりであるゆえ、お主が遺恨を持たずに接すれば、向こうも心を開くであろう」
「頑張ってみます」
「ほっほっほ」
老人は素直に返事をする夏樹に微笑むと、芋焼酎の入った一升瓶に口をつけ、直接飲んでいく。
夏樹は知らなかったが、老人は酒が強いようだ。
飲兵衛の小梅や銀子でも、一升瓶を直接飲んだりしない。ワインの瓶の直飲みは見たことはあるが。
「由良夏樹よ」
「はい」
「お主は、魔王と共に人間と戦うそうだな?」
「ええ、魔族と人間の和解は無理でしょうから」
「――辛くはないか?」
老人の質問に、夏樹は驚いたように身を固める。
だが、すぐに笑顔を作って頷いた。
「問題ありません。この世界の人間には恨みしかありませんから」
「そうか。だが、恨みだけを持って戦うことはよくないのう。考え方を変えるべきであると思う」
「……考え方を変える、ですか?」
「うむ。魔族のために、魔族の未来のために力を貸す。きっと口では言っているかも知れぬが、本当の意味で魔族のために戦ってみるとよい」
「人間を滅ぼすためではなく、魔族を生かすために……戦うことは変わらぬだろう、殺すことも変わらぬだろう、だが、気の持ちようは違う。それにのう」
老人は片目を瞑った。
「魔族のためと言っているほうが、魔族に恩を着せるにちょうどよいであろう?」
「……なるほど。そうします」
夏樹は頷く。
一升瓶を飲み干した老人は、夏樹を見て満足したような顔をすると、立ち上がった。
「酒を馳走になった。わしは、もういこう」
「え? ですが」
「わしは人間にも魔族も関わらぬのだ。お主は、興味を持ってしまったので、例外にしておるのだよ」
「……お師匠様」
老人は夏樹の肩を優しく叩く。
「頑張らんでもよい。逃げたくなったら逃げればよい。頼りになる仲間に頼ってよい。かつてこの世界で孤独に戦ったお主はもういない。今は家族と友に囲まれておる」
「……はい」
「夏樹よ――生きて故郷に帰りなさい」
「はい!」
老人は夏樹に背を向けた。
ひらひらと手を振り、足を進めていく。
「お師匠様、どうもありがとうございました! またお会いできて嬉しかったです!」
「わしもだ」
そう言い残し、老人は消えた。
まるでそこにいなかったように。
「本当に、ありがとうございました。――師匠ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」