作品タイトル不明
40「二度寝って最高じゃね?」
夏樹はゆっくり目を開けた。
「おおっ、夏樹! 目覚めおったか!」
「絶叫から静かになったと思ったら、うわ言でベストがどうとか言っているからやべーって思ったっすけど、大丈夫っすか?」
「夏樹? あんた、平気なの?」
身体がだるく、重い。
目だけを動かすと、こちらを覗き込んでいる美女、美少女がいた。
「――女神様」
夏樹の口から、思わず言葉が漏れた。
無理もない。
覗き込む三人は、美しかった。
「ああん?」
「はぁ?」
「なにそれ?」
怪訝そうな顔をする小梅、銀子、聖剣さんだが、夏樹の視線を気にするように髪を手で撫でたり、整えたりし始める。
口では「なんだそれ」という感じだったが、思い切り「女神」扱いされて意識していた。
「ま、まあ、俺様は天使じゃが、女神レベルの美しさがあるかといえばあるんじゃがのう! わかっとるのう!」
「わ、私は小梅さんほど自信はないっすけど、女神なんて言われると照れちゃうっすね」
「ふん。私の神々しさに気づいたのなら、それでいいのよ! べ、別に嬉しくなんかないんだからね!」
三者三様に頬を赤らめて照れている。
「……あれ?」
夏樹の目の焦点が合っていく。
しばらく、ぼうっと当てもなく遠いところを眺めていた夏樹が、小梅たちに気づく。
「あ、女神様かと思ったら、小梅ちゃんと銀子さんと聖剣さんじゃん。あれ? 河童大神様に仕える女神様は何処に?」
「……こやつに期待した俺様が馬鹿じゃった」
「そうっすね。中学生に大人の魅力はわからないっすよ」
「ふんっ。べ、別にふざけんなとか思って――いるんですけど!」
身体を起こした夏樹に、聖剣さんが頭突きをする。
「ぐぺっ!?」
「なっちゃん!?」
再び倒れた夏樹を、円が優しく起き上がらせた。
「ありがとう、円ちゃん」
「ううん。でも、身体は大丈夫なん? ずっと叫んどったけど?」
「そういえば……もう痛くないかな?」
内側から引き裂かれるような痛みに失神したことを思い出したが、今の夏樹の身体に痛みはない。
むしろ、どこか軽さがある。
「ほっほっほ。耐え抜いたようだのう」
「お師匠様」
夏樹の前におもむろに近づいてきた老人に、夏樹が視線を正す。
「ふむ。どうやら器は広がったようだのう」
「そうですか?」
「うむ。お主の力が百あるとして、かつてのそなたは七十くらいしか受け止める器がなかったのだ。そうなると溢れた力が行き場をなくしてしまう」
「ですね」
「そこでわしはお主の海の勇者の力を封じた。それでも、聖剣の力を持て余したようだがのう」
聖剣さんの力は夏樹には大きすぎる。
彼女が協力的なので、夏樹は補助を受けて力を使っている一面もある。
それでも、使いこなせない力はまだある。
「まさか、俺の器は百を超えて師匠からギャラクシー河童ソードを授かるってことですか!?」
「……まったく違うのう」
「違うんだ」
「真面目に聞け、由良ぁ!」
「はい、ごめんなさい!」
河童大神様に仕える女神様からコンタクトを受けたことでテンションが高い夏樹を千住が叱る。
夏樹は、背筋を正して師匠の言葉の続きを聞いた。
「よき友を得たのう。さて、お主の器の話にもどるが、先程までのお主の器はせいぜい五十くらいだった」
「……あれぇ?」
「無理して力を使っていたせいで、器にヒビが入っておったし、溢れ出た力もお主を蝕んでおった。だが、今のお主はかつてこの世界にいたときのように七十の器を取り戻した」
「なるほど?」
「わかっておるのかのう?」
「つまり、俺はこっちの世界で魔神ぶっ殺したときの力を取り戻したってことでいいんですか?」
「そうじゃのう……断言はできぬが、器としては取り戻しておる。だが、やはり肉体が若返っているということを考えると、当時の力は出せぬだろう」
夏樹は体内に魔力を巡らせてみる。
今まで以上に魔力の流れがいい。
意識せずとも、呼吸するように魔力が体内を巡っていく。
師匠の言うように、この世界で魔神を殺したときを全盛期とすると、まだ力は程遠い。
しかし、使える力の幅が広がったのは理解した。
今まで、力の三割、四割、五割、と少しずつ力を出していたが、力の出力そのものが変わった感じがする。
茨木童子と戦ったときは、限界を超えた限界だったが、現在の夏樹ならばかなり無理をすればその時の力を出せる、くらいにまでなっている。
聖剣さんのサポートがあれば、大きな負担はないだろう。
「ありがとうございます、師匠」
「うむ」
「まだ力の使い勝手がわかっていませんが、安心してください! ちゃんとこの世界を滅ぼしてみせますから!」
「――ほ?」
老人が目を丸くする。
小梅が夏樹を引っ叩いた。
「一応は、この世界は滅ぼしたらあかんじゃろう!」
「そうでした!」
「そういうのはこっそりやるんじゃ! あ、手がすべっちゃった的な感じじゃ!」
「――っ、さすが小梅ちゃん! 魔王サタンの娘だけあって、策略家だね!」
「どやぁ!」
「いやいや、夏樹くんだめっすからね!? あと、小梅さんも全然策略じゃないっすから! 小学生だってそんな適当なことしませんから!」
夏樹たちは賑やかに騒ぎ出す。
そんな光景を目にして、老人は慈愛の籠った笑みを浮かべた。
「楽しい子たちだのう」