作品タイトル不明
39「ついにコンタクトがあったんじゃね?」
夏樹は苦しんでいた。
内側から、「なにか」が暴れ突き破ってくるのではないかと不安になる程の激痛と違和感が襲う。
日本に帰還したことで、「元に戻った」と思っていた自分が、「別のなにか」に変わっていくような錯覚さえ受けた。
叫ぶ。
叫ぶ。
叫ぶ。
血を反吐を吐き、喉を枯らし、叫び続ける。
そして、意識が暗転した。
目を開けると、真っ暗な空間にいた。
光のない、ただの暗闇だ。
立っているのか、どこを見ているのかさえわからない空間にひとりぼっちだった。
「おーい、誰かー! 小梅ちゃーん! 銀子さーん!」
呼んでも誰も返事がない。
ここは夢かなにかだと判断した。
「痛くないだけマシか。いやー、それにしても、俺って痛みの耐性が強かったはずなのに、あんなに痛いとは思わなかった。やべえな、師匠は」
楽して強くなることなどできないとわかっているが、それでも死ぬかと思った。
それでも、異世界で辛く厳しく果てのない戦いの中で強くなるのと、痛みで強くなるのでは、後者のほうがマシだ。
「師匠がどんな人なのか気になるけど、まあ、本人が言いたくなさそうだし聞くのも失礼だしな。――まあ、河童大神様の御使の予感がするけど」
問題は、どう現状を乗り越えるか、だ。
「ゲームだとここで誰かに出会ったりして覚醒! ひゃっはー! ってなるのが定番だけど、きっと河童大神様からコンタクトが」
――由良、夏樹よ。
「ほら、きたぁああああああああああああああああああ! っしゃぁああああああああああああああああああああああ!」
冗談で言ってみたが、まさか本当にコンタクトがくるとは思わず、夏樹はガッツポーズをした。
声は女性のものだ。
夏樹は緊張しながら、声の続きを待った。
――由良夏樹よ。
「はい!」
――私は河童大神様に仕える女神です。
「か、河童大神様ではないのですか!?」
――残念ですが、あなたはまだ河童大神様と言葉を交わすことのできる領域にいません。
「――そ、そんな」
――嘆くことはありません。
――河童大神様はあなたのことを見守っています。
――ただ、河童大神様の力はあまりにも大きく、言葉ひとつであなたを絶命させてしまうのです。
「さすが河童大神様!」
――そこで、私を介してお言葉を届けたいと参上しました。
「ありがとうございます!」
――あなたはいい子ですね。
「てへへ!」
――では、偉大なる河童大神様のお言葉をお伝えします。
「はい!」
――ベストを尽くしなさい。
「――っ!」
――あなたはいつでも全力で挑む、勇気ある者です。
――あなたはあなたのまま、ベストを尽くすのです。
――戦いも、恋愛も、青春も、何気ない日常も、後悔しないようベストを尽くしなさい。
気づけば夏樹は涙を流していた。
河童大神様のお言葉が心に染み渡っていくのだ。
――河童大神様は特別なことは言いません。
――当たり前のことを当たり前にすることが一番難しいと存じているからです。
「……河童大神様っ」
――いつでも河童大神様はあなたと、あなたのかけがえのない仲間たちを見守っています。
「ありがたき、幸せ」
――以上です。
「ははぁ!」
――これは、私からのお願いですが。
「なんなりと申しつけてください!」
――この世界にいる河童たちですが。
「この世界に河童さんがいるんですか!?」
――はい。
――地球に住まう河童たちが、異世界に流れつき生活をしています。
「なんてことだ!」
――できることなら、彼らと交友を図り、日本へ連れて帰ってはくださいませんか?
「か、河童大神様のお力でどうにかならないのですか?」
――申し訳ございません。
――私たちを含め、河童大神様は別の時空にいるのです。
――あなたの強い河童の思いが時空の果てにいる河童大神様に届いたことが、まず奇跡なのです。
夏樹は感涙した。
まさか自分の想いがそんな遠くまで届くとは。
――お願いします、由良夏樹。
――我が同胞に情けを。
「もちろんです! ギャラクシー河童勇者由良夏樹にお任せください!」
――ありがとうございます。
――お礼にというわけではありませんが、助言をしましょう。
――この世界に住まう河童たちと出会うことで、あなたが失っていた力を取り戻すでしょう。あなたの大事にする彼女とともに。
「――ま、まさか、俺にさらなる強化フラグが」
――この世界のこと、この世界の河童たちのこと、お願いします、由良夏樹。
「はい!」
――そうそう。
――河童大神様はハーレムが好きなので、頑張ってください。
「ちょ、河童大神様!?」
――異世界転生いいですよね。
――いつか河童大神様も転生したいとおっしゃっています。
「ちょっとフレンドリーな感じがします!」
――河童大神だけど異世界に転生したら、落ちこぼれの三男でした。しかし、河童スキルで無双して、最高のハーレムを築きます。
「なにそれ読みたい!」
――あなたに偉大なる河童大神様のご加護がありますように。
そう言い残し、声は遠ざかっていった。
夏樹は拳を握る。
不思議と目を覚ましてもなんとかなる気がした。
「さあ、ベストを尽くそう!」
そして、夏樹は目を覚ました。