作品タイトル不明
37「師匠と再会って強化フラグじゃね?」②
夏樹は師の言葉に表情を変えなかった。
「でしょうねぇ」
それどころか、わかっているとばかりに頷いてみせた。
「お主、自覚があったのか?」
「さすがに死んじゃう自覚はなかったっすけど、肉体が弱体化したのに力を無理やり引き摺り出していれば、そりゃ限界もあるっしょ」
「……それでよいのか?」
「よくないけど、必要があったから仕方がないかなーって」
夏樹は死を恐れない。
死よりも怖いことを知っているからだ。
「肉体的に成長するか、今の状態で使えるだけの力を使って生きるかしていれば、問題はないんでしょうけど……今まで戦った奴らがみんな強かったんですよぉ!」
土地神みずち、七つの大罪の魔族マモン、素盞嗚尊、雷神トール、茨木童子。
どの相手も、出し惜しみなどできなかった。
後悔はひとつもない。
「一応、せーめーさんが歪んでいた力を調節してくれたんですけど、それでも駄目ですかね?」
「歪みの問題ではない。肉体の限界が訪れておる。これ以上、今のまま戦おうなら、制御できぬ力に翻弄され、死ぬだろう」
「ちょっと、その状態で海の勇者の力を解放されても迷惑なんだけど」
眉を顰めた聖剣さんが老人に文句を言った。
確かに、現時点で夏樹に限界が訪れそうならば、海の勇者の力は毒になるだろう。
老人は「わかっておる」と髭をなでると、夏樹を真っ直ぐに見た。
「――そこで修行じゃよ」
「修行イベントきたぁああああああああああああああああああああああああ!」
「…………やっぱりこの子は変ではないかのう?」
「…………最初からこんな感じよ」
夏樹はワクワクしていた。
師匠との再会、封印されていた力の解放、すべて強化イベントだ。
「ようやく異世界ものらしい展開になってきました! 河童大神様に感謝を! カッパー!」
困ったような顔をして夏樹を見る老人に、聖剣さんが「話を進めて」と促す。
老人は頷くと、テンションが高まっている夏樹に話を続けた。
「そう難しいことをするつもりも、させるつもりもない。まず、お主の肉体の器を広げる。さすれば、今まで以上に力を使えるようにあるだろう。負担も減る。力を過度に使わねば、死ぬことはないだろう」
「うっす!」
「……その次に、海の勇者としての力を解放する。お主は、海の勇者でありながら、中途半端じゃ。力と向き合っておらぬ。そこから始めるとしよう」
「はい、師匠!」
「……わしの記憶にある坊主と違いすぎて困惑してしまうのう」
「平気平気、お師匠様! 慣れるって!」
「……はぁ。まあよいじゃろう」
老人も夏樹の言動をスルーできるようになってきたようだ。
夏樹はわくわくしながら、師匠に問う。
「それで、その修行はいつからするんですか?」
尋ねられた老人は、笑みを深めた。
「――無論、今から」
そして、とん、と夏樹の胸を指で軽く突いた。
次の瞬間、夏樹の内側から、引き裂かれそうな激痛が生まれ、身体中に駆け巡った。
「ぎっ、が」
「一時間ほどの苦痛ゆえ、我慢しなさい」
「ぐぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
喉が裂けそうな絶叫が異世界の夜空に響いた。