作品タイトル不明
35「再会って心にくるものがあるんじゃね?」②
由良夏樹は聖剣に選ばれた勇者であると同時に、海の力を持つ勇者でもある。
日本で平和に暮らしていたときも、それなりにやんちゃだったこともあり場数を踏んでいた。
魔王を倒し、魔神を殺した夏樹だが、最初から強かったわけではない。
剣は独学で、戦いは喧嘩の延長線上だ。
規格外の魔力と、聖剣から授かる強大な力を扱うことで、足りない技量を補って戦っていた。
――それでも限界はある。
物怖じしない性格だが、なんだかんだとお人好しの夏樹は、異世界人の対応に疲弊していた。
命を奪うことへの嫌悪と罪悪感に夏樹はさいなまれていた。
せめて、誰かが心から夏樹に感謝し、「助けてくれてありがとう」「戦ってくれてありがとう」と言ってくれたら夏樹の心は救われていただろう。
だが、異世界人は夏樹に感謝しなかった。
助けられて当たり前。
死者が出れば「勇者のせいだ」「なぜ助けなかった」「償え!」と責め立てる。
それが、たとえ、避難誘導する騎士たちを無視して我先に助かろうと暴走した結果であっても、だ。
夏樹の心身の限界は実に容易く訪れた。
夏樹は耳を塞ぎ、心を殺し、機械的に戦うようになった。
命を奪うことになにも感じなくなり、魔族だろうと人間だろうと前に出てきた者の命を平等に奪った。
夏樹にとって、この世界の人間も魔族も例外なく「異世界人」なのだ。
戦い、傷ついた。
信用できる仲間も、味方もいない。
ときには夏樹を利用しようと企む者、異物と排除しようとする者を殺した。
傷は治せても、心は疲弊していく。
夏樹を支える者は誰ひとりとしていないのだ。
飲食せず、ベッドの上で剣を抱きしめ足を抱えて目を閉じているだけの夏樹を、不気味に思った人は多い。
出会いは、限界が訪れ、自殺さえ考えていた夏樹が、魔族と戦い傷ついたときのことだ。
人間の部隊とはぐれ、彷徨っていた夏樹は狼型のモンスターに襲われた。
夏樹の実力では、苦戦しない敵だったが、数が多すぎた。
負傷していたこともあり、大きな痛手を負った。
魔力が尽きかけ、足を泥に取られて川に身を落とした。
このまま死んでしまってもいいかもしれない、と諦めた夏樹を拾い助けたのが、後に師匠となる老人だった。
老人は、夏樹を見てすぐに異世界から召喚された者だと理解した。
そして、その身に宿す聖剣と海の力に目を丸くする。
続いて、力の使い方がなっていないと笑った。
とても穏やかな声の老人だった。
異世界の人間のように感情的に大きな声を出すのではなく、冷静に、知性的に会話ができた。
彼は唐突に夏樹に力の使い方を教えようと言った。
元の世界に帰るためにも、戦い抜く力を授けようと言ったのだ。
そのときの老人の顔を、夏樹は一生忘れないだろう。
異世界に召喚されて孤独を抱えていた少年を、哀れみ、悲しんだ顔だった。
老人から力の効率的な使い方を学ぶことで、今まで自分がどれだけ力を適当に、雑に扱っていたのか理解した。
無理もない。異世界人は粗雑で、聖剣に選ばれた夏樹を疎んじていた。
別世界の人間が勇者になったことを妬んでもいた。
魔族と適当に戦い、死んでしまえば、もしかしたら聖剣が手に入るなどと考える者だっていた。
そんな連中が、夏樹に戦い方をきちんと教えるはずもない。そもそも、別世界から勇者を呼び出さなければならぬほど魔族に敗北続きだったのだ、強くもなかった。
聖剣の力を正しく引き出すことで、聖剣の魂である少女と出会えた。
今までは、ただ聖剣に選ばれただけの存在であることもそのときに知った。
夏樹は、聖剣の化身である少女と契約を果たし、本当の意味で聖剣の勇者となったのだ。
この際、海の勇者としての力を学ばず、聖剣の力を十全に使いこなす選択肢をした。
老人は、穏やかに戦いだけではなく知識もくれた。
魔族と人間の戦う理由。
人間の愚かさ。
魔族の怒り。
知らなかったことを、知らされていなかったことを知り、夏樹はこの世界を早々に見限った。
人間のためでも、魔族のためでもなく、自分が日本に帰るためだけに戦おうと決めたのだ。
老人のもとで三月ほど学んだ夏樹は、戦いに戻っていくこととなる。
もう孤独ではなかった。
聖剣の化身と意思疎通ができるのだ。絶対的な味方を、相棒を得たのだから。
老人は、最後に夏樹の「海の勇者」としての力の大半を封じた。
持て余す力が邪魔だと判断したからだ。
一部の海の勇者としての力だけでも、夏樹自身の身を滅ぼすと老人が判断した結果であり、夏樹も従った。
夏樹は老人に何度も礼を言い、再会の約束をして去った。
そこから、夏樹は人間にも魔族にも恐れられる勇者として殺戮を繰り広げていくことになるが、それまた別の話だ。