軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32「伝説の予感じゃね?」

同時刻。

異世界のとある河原。

――ずんどこずんどこ、どんどこどんどこ。

軽快な太鼓の音に合わせて、「かれら」は踊る。

焚き火を囲んで、捧げるように「かれら」が踊る。

――どこどこ、どんどこ、ずんどこ、どこどこ。

「かれら」は笑顔だった。

大人も子供も。

かずは五十ほどしかいない、小さな集落という感じではあるが、「かれら」はひとつの家族のようだった。

――どんどこ、どこどこ。ずんどこ、どこどこ。

踊り終えた「かれら」は、川に背を向けて座った。

「かれら」の目線の先には、樹齢千年を優に超える大木があった。

青々とした緑を広げる、強い生命感を持つ大木が聳え立っている。

太鼓の音が止まる。

「かれら」は一日の感謝を込めて大木へ頭を下げた。

――大木の根元には、古びた一振りの剣が刺さっている。

「かれら」は温厚な種族だ。

戦いを好まず、ひっそりと生きていた。

そんな「かれら」をモンスターや人間から守っているのが、大木と根元に眠る剣だった。

大木は「かれら」を包み込んで外敵から守ってくれていた。

時折、中に入ってくる外敵は、剣から発せられる雷によって焼かれてしまう。

大木と剣は、「かれら」にとって守り神だった。

ゆえに祈りを捧げる。

感謝を捧げるのだ。

「――っ、今……この世界の河童さんからなにかを受信した気がする」

「この世界に河童いるの!?」

酒盛りを終えて、満足そうにテントで出ている飲兵衛たちに代わり、片付けをしていた夏樹は彼にしか受信できない「なにか」を受け取っていた。

エルフ族長との挨拶を終えて戻ってきた夏樹が、できる主夫のようにテキパキと片付けを始めたので、三原一登も手伝っていたのだが、急に変な電波を受信してしまったようだ。

夏樹の平常運転には慣れていたが、一登は異世界に日本の妖怪である河童がいるとは思えず、目を剥く。

「いるさ。河童さんはどの世界にでもいて、世界の平和を守っているのさ」

「……俺の知っている河童となんか違う」

もともと夏樹は河童だけではなく妖怪が好きだったと一登は記憶している。

その中でも特に河童が好きで、昔、一登の兄三原優斗のせいで因縁をつけてきた不良の髪を河童スタイルにしたことがある。

その不良は、毎日夏樹に頭頂部を剃られて泣くが、「いたいけな中学生に絡んだお前が悪い」と夏樹は許さなかった。

夏樹が飽きるまで、毎日不良は河童スタイルを貫き通すことになる。

そんな不良が更生し、今年の春から東京の大学で教師になるために勉強していることを一登は知っている。

「もう二度と馬鹿な真似はしない」と一登と約束してくれている。

ちなみに、その元不良は現在スキンヘッドだった。

「一登……河童さんが本気出したら、この世界なんて秒で崩壊だから」

「そんな物騒な河童さん嫌だよ!」

「冗談だって、ははははは! 勇者ジョーク!」

「夏樹くんのテンションにつていけない時がある」

もともと情緒が不安定な夏樹だったが、異世界から帰還してからもっと不安定になった気がする。

一登は幼馴染みであり兄でもある夏樹を心配しているのだ。

幸にして、小梅や銀子、ジャックとナンシーが夏樹と一緒にいてくれている。

彼女たちなら夏樹に何かあれば全力で力になってくれるだろう。

「真面目な話をするけど……この世界で夏樹くんて河童と出会ってる?」

「出会ってねーです」

「だよね」

「うん。いくらなっちゃんがこの世界でバーサーカーになっていたとしても、河童さんがいたら理性が戻っていたんだけどね」

「じゃあ、やっぱりいないんだ」

「かもしれない。魔王さんに後で聞いてみようって思っているんだけど、いないって言われたときの心の準備ができない!」

「……準備いるかな? 向島市で河童さんと出会ったんだし、この世界はこの世界ってことで気にしなくてもいいんじゃないかな?」

「河童さんのいない世界で俺はどう戦えばいいんだ!」

「そうです! お姉ちゃんのいない世界で私はどう生きればいいんですか!?」

ゴミ袋を縛っていた夏樹たちの前に、血走った目をした水無月都がいた。

夏樹のクラスメイトであり、一登の一学年上の先輩である彼女の隣には、姉の水無月澪が照れた様子で立っている。

「な、なんか都がごめんね」

「夏樹くん、第三者から見たら都さんも夏樹くんも変わらないからね」

「……マジか。ちょっとショック」

「ちょっと、夏樹くん!? ショックってどういう意味ですか!?」

一登の指摘に、夏樹はひどくショックを受けた顔をした。

都はそんな夏樹にご不満のようで頬を膨らませている。

「……俺さ、もう少し言動を気をつけるよ」

「そのほうがいいと思うよ」

「都さんと同じだと思われたら……ちょっとね」

「だから! どういう意味ですか!」

反省する夏樹だった。

「ねえねえ、夏樹くん」

「澪さん?」

澪が夏樹の肩をぽんと叩く。

「この世界の河童さんは……伝説の剣を守っているんだよ」

「――とぅくん。なにそれ素敵」

「夏樹くんはイベントで河童さんの集落を訪れ、伝説の剣を手に入れて勇者として覚醒する」

「やだ、それ! 最高すぎぃ!」

「そして伝説のギャラクシー河童勇者に」

「んほぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

身体を震わせて喜ぶ夏樹に、澪が親指を立てて満足そうにする。

「えーっと、あの」

「お姉ちゃんはゲームが大好きです! 私は、そんなお姉ちゃんが尊いと思います!」

瞬きもせず姉を見守っている都に、

「あ、はい」

一登はちょっと引き気味に返事をした。