軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31「しののんも割と好戦的じゃね?」③

成人男性よりも一回り以上大きく、骨格も人間とは比べ物にならないほど頑丈で、重量に至っては三倍以上あると思われる筋骨隆々のオーガは、細身の安倍東雲の足から放たれた蹴りに易々と宙を舞った。

「ガイオン!?」

弟が宙を舞う姿など見たことがなかった兄ゴールンが、信じられないものを見たように目を見開き、弟の名を呼んだ。

受け身も取れず背中から地面に音を立てて落ちたガイオンが動けずに、夜空を見上げる形になる。

視界の中に、白髪頭の糸目の東雲が覗き込むように見つめていた。

「びっくりしたやろ? 自分は自分よりも強い生きもんと戦うことを想定して生きてきたんや。君くらいは、こんなもんやよ」

細い目がゆっくり開かれる。

彼の目は、恐ろしく冷たい氷のようだった。

ひらひらと手を振った彼は、ゆっくり足をあげる。

ガイオンは、東雲がなにをしようとしているのか理解した。

「喧嘩売ってきたんはそっちやし、かわいい弟を侮辱したのもそっちやから――命で償うってことでええんよね?」

「――ま」

ゴールンが東雲を制す前に、無慈悲にも彼の足は振り下ろされた。

「兄貴あかん!」

「駄目だ、安倍東雲!」

安倍東雲がオーガの顔面を踏み潰さんとしたとき、安倍円と神奈征四郎が声を鋭くして叫んだ。

円の声が通じたのか、それとも最初からそのつもりがなかったのか、東雲の足はオーガのガイオンの顔を潰すことなく、すぐ横の地面を大きく陥没させただけだった。

「……ガイオンはんやっけ、弟と友達がやさしゅうてよかったねぇ?」

にこり、と微笑む東雲に、ガイオンはなにも言えずに口をぱくぱくしているだけ。

「さてはて……そっちの、ゴールンはんやっけ? 君はどうする? まあ、やるん言うなら、自分の足が滑ってまうかもしれへんけど?」

ゴールンに向かい、脅しとも受け取れる言葉を投げかける東雲に、円と征四郎が「やめや」「やめておけ」と嗜める。

オーガ族の族長の息子と名乗る以上、ゴールンもガイオンも相応に強いのだろうと思うが、相手が悪かった。

安倍東雲は、由良夏樹という規格外には届かずとも、霊能力者として、人間としても規格外な領域に足を突っ込んだ男である。

円はもちろんだが、同世代であり、東雲の逸話を知る征四郎も、オーガがいくら強かろうと東雲が負ける想像ができなかった。

「……弟が申し訳ない。私は戦うつもりはない。弟のことも謝罪する。これ以上、愚かな真似をしないと約束させよう」

ゴールンが頭を下げる。

東雲は、しばらくなにか考えていたようだが、すぐにいつものように目を細めた。

「自分も兄やから、ゴールンはんの言葉を信じましょう」

「……感謝する」

ゴールンはよりいっそう頭を下げた。

東雲は未だ動けずにいるガイオンの腕を掴むと、巨漢のオーガを軽々と引き起こす。

ふらつきながら、なんとか両足で自身を支えるガイオンに、東雲は微笑んだ。

「ガイオンはんは、ええお兄ちゃんがおって幸せもんやねぇ」

温和に見えるはずの東雲の笑顔に、なぜかガイオンは顔を真っ青にした。